トラディショナル・リテールからの脱却
米国において薬局が果たす役割は、日本と大きく異なる。米国では薬剤師もワクチン注射が可能であり、Walgreensはワクチン接種拠点の提供という役割も担う。コロナ感染拡大によって人々は自由に薬局に行きづらくなる一方で、その役割は非常に大きくなった。
ここでDXは必須の課題となった。「2年前のWalgreensは、正に『トラディショナルなリテール』そのものでした」とレイン氏は言う。常に顧客と地域コミュニティに貢献してきた同社は、リアルとデジタルを融合させることによって顧客のニーズをより理解し、これまで以上に彼らに貢献する必要に迫られた訳だ。
WalgreensがDXを推進するにあたって掲げたビジョンが、まさに「Mass Personalization」であった。まずWalgreensは、7,300におよぶドライブスルー対応店舗を生活必需品のBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)拠点として解放した。
次に、全米で最速となる30分以内のBOPIS対応を実現した。
さらに、デジタルツールを使って顧客と医療者をつなぐケアプログラムを拡張。Walgreensは数年前に数多くの医療機関や医療施設と提携したプログラムをローンチしており、電話やネットのビデオ通話を使って医者に相談する「テレヘルス(遠隔医療サービス)」も提供している。コロナ禍における自らの使命を果たすべく、持てる資源を活用し次々とこれらの手を打っていった。
ロイヤルティプログラムを刷新し、顧客体験のパーソナライズを実現
そしてWalgreensは2020年6月にマイクロソフトとアドビとのパートナーシップ契約を締結し、パーソナライゼーションの最適化を図る体制を強化。同年11月には、一人ひとりの顧客とつながる基点となるメンバーへのロイヤルティプログラム刷新を発表した。これにより、すべての顧客接点を横断した「パーソナライズされた顧客体験」を提供できるようになったと同時に、単なる購買に留まらない、「顧客行動を知る1st Party Dataの把握」が可能になった。
2021年の3月時点で、Walgreensはすでに1,500万以上ものワクチン接種を実施し地域社会に大きく貢献している。
同年4月にはUberとの提携により、接種時間の予約と同時に最寄りのWalgreens接種会場まで送迎する車の乗車予約まで完了できる仕組みを発表。これらもすべて、顧客を1つのIDで見る「One View To Customer」が実現できていたからこそ可能になったサービスだ。