1st Party Dataの力を解放せよ
Walgreensはこれまでも1st Party Dataを保有していたが、2年前まではこれを資産として十分レバレッジできていなかったという。しかしいまWalgreensは、1st Party Dataから「新しい収入源(New Revenue Streams)を生み出す」という次の地平を見据えている。
Walmartも既に自社メディアを活用したインハウス広告サービスの展開を開始しているが、Walgreensも2020年末に「Walgreens Advertising Group」を設立。「最先端、フルサービス、パーソナライゼーションドリブンな広告を提供する」ことを掲げ、自社メディアでのB2B広告ビジネスを展開している。ここに1st Party Dataを活用すれば、Walgreensが把握した顧客のニーズや購買行動は、広告サービスの精度を上げていくことになる。
また、2021年1月にWalgreensはFinancialサービスの強化としてクレジットカードとプリペイドデビットカードのローンチを発表しており、これからはファイナンシャル・サービスでも1st Party Dataが活用されていくことになるという。
レイン氏のスピーチで何度も登場したのが、「Unlock」という言葉だ。つまりWalgreensは顧客体験を向上させることによって顧客を理解するデータを手に入れただけでなく、「1st Party Dataの力を解放(Unlock)」し、次のビジネスモデルを手に入れようとしているのだ。だからこそ「これからのマーケターはセールスだけを追うのではなく、ITを活用しより良い顧客体験を編集していくことが求められるようになる」とレイン氏は述べている。
DXで100年前の薬剤師の営みに回帰
最後に、トラディショナルなリテールであったことを自認するWalgreensが、ここまでの変革に踏み切れた原動力を、レイン氏は次のように語った。
「我々が成し遂げたことは、薬剤師が100年以上前から取り組んできたことへの回帰です。彼らが全力を傾けたのは、薬をボトルに詰めて売ること自体ではなく、薬局が地域の健康を守る場になること。我々がデジタルによって成し遂げようとしたこともまた、薬局による誰もがアクセスできるヘルスケアの実現でした」
まさに顧客とのつながりを深め、テクノロジーで顧客の健康とウェルビーイングを実現したのだ。
Walgreensの事例から分かることは2つある。1つは「DXにおける顧客価値の重要性」だ。コロナ禍でその価値実現が脅かされたからこそ、彼らは自らの顧客価値に強烈に立ち返り、顧客体験をパーソナルなものへ転換することを目標としてDXに取り組んだのだ。そして2つ目は、「DXが結果的に新しいビジネスモデルの強化に繋がり、新しい収益獲得への道を開きつつある」ということだ。
次回は、フィットネスクラブを展開するGoodLife Fitnessのセッション内容を取り上げ、引き続き伝統的なビジネスモデルを持つ企業の変革を事例から解説する。