社会課題の解決の糸口を「DX2.0の4P」モデルで検証する
「ワクチン接種予約」を取り巻く日本社会の混乱や困惑。その原因として、「マーケティング視点(顧客目線)」の欠如が指摘される。ワクチンを打つ側、すなわち供給する側のオペレーションが優先された結果と言えるだろう。
それはオペレーション負荷軽減として評価される点もあるものの、平井デジタル大臣が提唱している“誰一人取り残さないデジタル化(DX)”を実現するためには、「理想の社会」「人の関与」を十分に考慮しながら、「何でもかんでもデジタル化」ではなく、「デジタルとアナログのハイブリッド」な「人による人のためのDX」を目指す必要がある。
弊著『マーケティング視点のDX』(日経BP)では、「何でもDXする前にマーケティング視点の分析が必要」「システム中心のDXは危険」「人を考慮したDXを行うべき」といったメッセージを伝えている。そして、その実現のためには「敢えてアナログで残す部分を考えることが重要」というメッセージも提唱している。
本稿では、「ワクチン接種予約」という喫緊の社会課題に対して、「DX2.0の4P」モデルを活用していたら、どのような結果になっていたかを検証したい。
「DX2.0(マーケティング視点のDX)の4P」モデル
具体的な検証に入る前段階として、まずはマーケティング視点のDXにおける4Pの構成要素「Problem」「Prediction」「Process」「People」から、今回のワクチン接種予約を取り巻く状況を整理しよう。
1、Problem(課題)
顧客や自社、業界や社会の抱える問題を調査などを通じて定量・定性面で把握し、定義する。今回の場合は医療従事者、ワクチン接種関係者、高齢者、一般の順にワクチンを接種することが大きな意味での本来の「Problem(問題)」と言えるであろう。しかし、予約システムがない、と言うのが問題になってしまったのではと考える。
2、Prediction(未来予測)
自社や関係先、社会全体のあるべき姿や技術動向を予測して自社や顧客・取引先の理想的な姿を描く。今回の失敗原因は、ワクチン接種の大きな意味での理想像、現在の理想ではなく未来に向けての理想像を政府や行政が描く事ができなかったからであろう。本来、理想の未来は利用者にも、供給側にもストレスがないものでなければいけないのである。
3、Process(改善プロセス)
理想の姿から逆算してプロセスを規定する。規定したプロセスを実行する計画を立てる。今回の失敗原因はプロセスを現状からの積み上げ式で作った事であろう。そして、プロセスをマーケティング視点(顧客目線)ではなく作ったために起きた事であろう。DXのプロセスの中には「敢えてアナログを残す」事も考慮されなければいけないのである。
4、People(人の関与)
人により、人のために実行する。実行するために必要な文化・ケーパビリティ教育・組織導入。人間がすることと、自動化・合理化することを分けて促進する。DXは“人のため”に行わねばならない。ユーザーが使えない仕組み、理解できない仕組みや、実行できないプロセスを作り、ユーザーに教育をせずに実施しようと試みた結果、混乱が起きたといえるのではないか?