オンライン化で必要な「予熱、保温、拡散」のステップとは?
小島:コミュニティのオンライン移行にはどう対応していますか。
坂内:オンラインでは関係構築が対面より難しくなります。コミュニティの根幹は、ユーザー同士のつながりなので、これは極めて切実な問題です。イベント数が増え、オンライン疲れも生じています。
対面の頃以上に、高度な戦略、マーケティング、そして盛り上げ技術が必要です。実際の取り組みを紹介しますと、コミュニティリーダーが、ソーシャルメディアで事前に情報を発信して、メンバーの参加感を引き出す「予熱」、イベント後も継続的に発信、交流して、熱を「保温」「拡散」するという流れを、あらかじめ計画した上で、実行しています。
他にも、社会貢献と連動したキャンペーンや、バーチャルブースの導入など、オンラインであっても一体感を醸成するための試行錯誤を重ねています。
小島:地方との関係も変わりますよね。
坂内:はい。オンラインに移行すると場所に関係なく同時展開できるので、よりコンテンツそのものの魅力が求められます。ただ、大都市と比べると事例も人も少ないため、苦労することもあります。また、同じ地域の人とつながることに価値を感じていた人にとっては、参加する価値が下がってしまうため、良いやり方を模索しているところです。
持続可能な取り組みにするための継承・人材育成
小島:次に、コミュニティの継承と人材育成についてうかがいます。コミュニティをゼロから立ち上げた第一世代のリーダーは、全体も細かな部分も深く理解し、メンバーとの信頼関係も蓄積されているので、1人ですべてをこなせます。しかし、昇進、異動や様々なライフイベントも起こり得ますし、特定の個人に依存してしまうこと自体、会社組織としても望ましくはありません。
とはいえ、コミュニティは取引関係や指揮命令系統のような強制力がなく、マネジメントの考え方も質的に異なる部分があります。これまで1人でやっていたことを複数人で分担することはできるのか、という問題もありますよね。坂内さんはどのように考えますか?
坂内:私たちも、熱意やキャラクターで引っ張る、言わば「創業社長」の代から、チームで役割を分担し、ある程度誰でもできるような「仕組み」への移行を試みています。
コミュニティマーケティングは、社内調整、ユーザー対応、対外プロモーションを適切に組み合わせないと有効に機能しません。分業を機能させるには、スキルと役割を明確にした上で、チームとして統合する仕組みが必要です。
小島:なるほど。コミュニティマーケターに求められるスキルや資質については、どのように定義されていますか。
坂内:まず、B2Bユーザーコミュニティの運営に必要な業務について次のように整理しています。
(1)自社戦略と連動して、コミュニティを活性化するイベントやプロモーションなどを企画する「戦略立案」
(2)社内関連部門の協力を取りつけ、企画した施策をコミュニティに提案する「コミュニケーション」や、コミュニティ全体の運営を適正に保つ「ガバナンス」
(3)コミュニティリーダーへの支援や調整を行い、施策を実行に導く「オペレーション」
これらを行うために求められる資質は以下の3つです。
(1)自社の戦略とコミュニティの目標とを整合させる「商売人の観点」
(2)ユーザーのペルソナやニーズが個別具体に把握できていること
(3)コミュニティへの熱意
端的に言うと、商売感覚があり、手が動かせて、お客様への対応もできる人、といったところでしょうか。
小島:この3つすべてを兼ね備えた人が人材マーケットにいることはほとんどないので、自社で育成していくことになりそうですね。
坂内:そうですね。すべてが揃った即戦力人材を探すより、コミュニティへの熱意があり、必要な経験や資質を部分的にでも持っている人でチームを組み、それぞれがスキルを伸ばしていくのが現実的ではないかと思います。
当社の場合は、元Salesforceのユーザーで、全体的な戦略を描くことに長けた人と、コミュニティを盛り上げつつオペレーションを着実にこなせる人に入ってもらいました。それぞれが必要なスキルを拡張しながら、チームとして補い合えるようになることを目指し、実戦経験を積み重ねています。
