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米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

D2C事業の真価は「無形資産」の構築

日本発の米国事業の成功事例

 実は日本発の事業で、米国において「飴玉」が実りつつある好事例がある。米国小物家具の大手チェーン「The Container Store」は、オンラインでの顧客化が進んでいるリテーラーとして成長を続けている。そんな同社は、2021年1月から、近藤麻理恵氏こと「こんまり」が監修する商品の販売を開始した

写真1:The Container Store の店頭の様子(筆者撮影)
The Container Store の店頭の様子(筆者撮影)

 日本ではおなじみのこんまりだが、実はロサンゼルスに「KonMari Media Inc.」を2015年に設立し、世界を基軸にしたビジネスに挑んでいる。2019年には楽天が同社の株式の過半数を取得し、子会社化した。

 米国に設立当時から現在の「飴玉」の構想を描いていたことを筆者は知っている。米国(世界)での最初の事業スタートは、世界中に「こんまりメソッド」を啓蒙してくれるコンサルタント(伝道師)を育成し、認定書とともに広めることだった。これは一人一人を教育する地道なステップであり、「紙芝居」の序章に過ぎない。

 2019年1月から、Netflixで「Tidying Upwith Marie Kondo(邦題:KonMari〜人生がときめく片づけの魔法〜)」の配信がスタートし、「Spark Joy!(ときめくものを選ぼう)」というフレーズとともに大ブームとなった。このNetflixでの番組化でさえも、紙芝居の一幕である。

 実はこのNetflixのシリーズに至る前段階に、伏線がある。KonMari Mediaは、2018年に有名投資ファンド「Sequoia Capital」が主導する数億円未満(数百万ドル)の資金調達ラウンドを秘密裏に成功させていた。さらに、2019年のNetflixシリーズのローンチ後にも約40億円の資金調達ラウンドを成立させている。

 これらの紙芝居の拡大仕込みが完了し、資本体制が強固になった段階で、初めてメインステージの「飴玉」の創出に取り掛かる。「コンサルタント育成」や「Netflixでの番組化」といった事業は、それら単体で利益を得るものではない。これらの「紙芝居」の準備や効果によって資産価値があがった上で、その「生まれた価値」を次に「再投資させる(現金化して次に投資する)」ことが「飴玉」の本当の意義だ。

 先のThe Container StoreとKonMari Mediaとの契約内容は公開されていないが、KonMari Media側には製品の製造や在庫、それらに向けての設備投資などのマイナスリスクはないはずだ。この事業が成長すれば、「こんまり」ブランドとしての長期的な収入が期待できる。

飴玉を創出するための事業ステップ

 KonMari Mediaが、「お片づけ・掃除」に親和性のあるブランドを狙うのであれば、IKEAやP&G、Unileverなどを含め、アプローチ先として世界中に大きなポテンシャルを持つ企業や市場があるはずだ。これらの「おいしい」企業に対し、KonMari Mediaは即効性のある「紙芝居に乗せた横展開の営業」を、(ぐっと我慢して)行わなかった。

 ここに、飴玉を基点にしたステップが示されている。目先の特需による紙芝居売上を狙うのではない。売りたいものを提示し販売している事業は、いくらD2Cとして特需時期にヒットしても大量生産時代の思考の延長線に過ぎない。

 「飴玉」とは、「(まだ目に見えていない)無形資産のパイプ」を育てるイメージだ。ブームが続くD2C関連の事業にとっての「飴玉」は、「無形の資産」である可能性が高い。顕在化している「売上」や「人気」、そして「こだわり」とは異なる、まったく別の次元に大きな価値が潜んでいる。英語で「KonMari(する)」という「片づけ」を表す動詞が生まれたのも、無形資産の証だ。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/05 08:18 https://markezine.jp/article/detail/36626

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