メーカーと消費者が常時つながる時代
本連載では、共同ピーアール株式会社 総合研究所(PR総研)副所長、テクノロジーリードの上瀧和子氏が、テクノロジーとインクルージョンの知見を柱に様々な企業を支援する中で捉えた“情報流通の変化がマーケティング・経営にもたらしつつある地殻変動”を解説。IABC(国際ビジネスコミュニケーター協会)をはじめとする国際機関におけるマーケティングの実践や取材の知見を基に、企業と個人が有機的につながる事例を交えてお伝えします。
前世紀、需要が商品の供給を上回った時代にできたカタログ販売型のマーケティングが終焉して、早20年が経ちました。インターネット、スマートフォン、ソーシャルメディア、クラウド技術の浸透により、企業と企業および消費者の関係は大きく変化しています。こうした中、従来はBtoBの領域にとどまっていたメーカーは、拡大するデータとシステムをつないでBtoB、BtoCの垣根を取り払い、生産、販売、消費のサイクル全体を最適化するBtoBtoCマーケティングのアプローチをとるようになっています。その典型であるOEMを例に、情報によるビジネスモデル変化の最先端を見てみましょう。
OEMの基礎知識
OEMとは「Original Equipment Manufacturer」の略で、ブランドの裏方としてオリジナル製品を提供するメーカーを指します。OEMは製品の製造責任を負い、提供を受けたブランドはチャネルパートナーとなって消費者への販売責任を負う分業が成り立っています。これまではOEM側がBtoB、ブランドないしチャネル側がBtoCの事業領域を展開してきました。
OEMの典型的な例は自動車業界です。OEM事業者は、同じモデルを他社ブランドで販売することで、供給先の販売網による販売台数拡大が見込めます。供給を受けるブランド側は、工場や開発の投資なしに、新たな車種を取り込み、新たな顧客層を開拓することができます。
また化粧品や雑貨などでは、受託生産形式でブランドが商品の企画、設計などを行い、製造はOEMに依頼し供給してもらう、といったパートナーシップも存在します。スーパーやコンビニなどが提供するいわゆるプライベートブランド(PB)製品では、幅広い商品展開の中でそれぞれの製造をOEMメーカーに委託し、納品された製品が各PBブランド名で販売されます。
“チャネル区切り”から顧客中心型への移行
インターネットが人はもちろんあらゆる端末、センサーまでをもつなぐ今、IoT(Internet of Things)と呼ばれる膨大なデータのつながりが日々刻々と拡大しています。日本でIoTという言葉が公に用いられた例としては、総務省が2016年に制定した、国立研究開発法人情報通信研究機構法及び特定通信・放送開発事業実施円滑化法の一部を改正する等の法律(平成28年法律第32号)が挙げられます。ここでは、「高度情報通信ネットワーク社会の形成に寄与するため、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の業務の範囲に、サイバーセキュリティ演習及びIoT(Internet of Things(モノのインターネット)の略)の実現に資する新たな電気通信技術の開発等の促進に係る業務を追加」と発表されています。
このIoTによってつながった無数の端末が、製品のパフォーマンスに関する情報のみならず、どの商品がいつ買われたか、消費者の好みといったあらゆる情報を蓄積します。これを活用することで、従来OEMとして消費者とのつながりを持っていなかったメーカーが、これまで販売機能を受け持っていたブランドとともに、問い合わせ、受注、支払い、設置、運用、管理保守といったお客様に近い、いわゆるラストマイルの領域にも参加するようになっています。
つまり製造と販売といったチャネル区切りのビジネスモデルは、インターネットによる商材と商流のデータ化により顧客中心型に変化していると言えます。情報伝達の障害がなくなるだけでなく、ますます媒体が増え、メーカーと顧客が常に、長期的につながる新たなBtoBtoCモデルによる価値体系が形成されています。
この新たなBtoBtoCモデルでは、OEMメーカーから顧客への物理的な商流にともなう「情報の流通」により、ビジネスにおける各成功指標の改善が可能になります。