BtoB×SaaSのPMFは、検証に時間がかかる
正しい顧客にプロダクトが売れるようになることはPMFに欠かせない要素だ。しかし高田氏は、「売れること自体をPMFだと考えるのは間違いではないか」と話す。同氏によると、特にBtoBのSaaSのPMFにおいては、以下の4つのプロセスを検証する必要があるという。
1. プロダクトが売れる
2. 売れた相手を特定のセグメントとして抽象化した時に、一定程度の規模があることを確認できる
3. プロダクトをしっかりと活用してもらったり、顧客に価値を感じてもらえる
4. それが継続利用や単価アップにつながる
「実は1つ目と2つ目はすぐに検証できても、3つ目と4つ目に時間がかかる。SaaSはプロダクトが売れてから『そのセグメントが本当に良かったのか』を正しく理解しようと思うと、当社の経験を踏まえても、最低でも1年以上の期間が必要になると思います。やっかいなことに、売れることと最終的に顧客がサクセスして良好な関係を継続できることは、必ずしも一致するわけではないんです」(高田氏)
一連のプロセスを検証するための“ツール”として、コミューンでは大きく3つの指標を活用している。
まずは「プロダクトエンゲージメントスコア」という独自の指標を設計。これを基に顧客の管理者(コミュニティを主導する担当者)やエンドユーザーのアクティブアクションポイントを丁寧にスコアリングして、導入後の使われ方を計測しているという。
またNPS調査など「定量的なユーザー向けの調査」を用いて「この機能が使えなくなったらどう思うか」「どれくらいの工数がかかっているのか」といった顧客の実情を把握する。
並行して「定性的な顧客インタビュー」を実施していることもポイントだ。サービス利用から半年ほど経過した顧客を対象に、高田氏自ら1時間ほどの時間を使って決裁者や担当者の声を聞いている。

とことん売ってみると、きっかけが掴めることも
最後にコミューンでの実体験も踏まえつつ、高田氏にPMFのポイントを聞いた。
「初期の自分たちを振り返った時に、実は大きな勘違いをしていたと思うことがあるんです。それは『PMFを達成するまではプロダクトを闇雲に売ってはいけない』と考えてしまっていたこと。何となくそのような風潮があるような気がして、顧客と向き合うよりも自分の頭で考えることを優先してしまっていた時期がありました」(高田氏)
だが、その考え方を変えてさまざまな顧客にアプローチしてみたことで、コミューンがPMFを達成するきっかけを手繰り寄せた。もちろんその過程では上手くフィットせずに解約に至るケースもあったが、その中で「この領域は上手くいきそう」と好感触を得たところに突き進んだことがPMFにつながった。
「特にエンタープライズ向けのSaaSのような場合は、プロダクトを売るまではPMFの過程の中の10~15%ほどに過ぎません。むしろそこから先のほうがはるかに長いです。それを考えるとまずはとことん売ってみるしかなく、『PMFするまでは攻めるべきではない』と難しく捉え過ぎないことも重要だと思います」(高田氏)

取材後記
「『PMFを達成するまではプロダクトを闇雲に売ってはいけない』と考えてしまっていた」と高田さんが仰っていましたが、まさにPMFは鶏が先か、卵が先か問題に陥ってしまうことがあることを改めて理解しました。
初期はプロダクトのピッチデッキ※1やMVP(Minimum Viable Product)※2を顧客にあててフィードバックを得つつ、PSF(Problem Solution Fit)の確度を上げていくことは最近のスタートアップの方々はよくやられているかと思います。その後、ある程度のプロダクトができてきたタイミングで開発パートナーとしてベータ版プロダクトを提供し、有料版プロダクトを本格的に顧客に提供していきPMFの確度を上げていく。所謂PMFの教科書的なフローはこのような流れだと思いますが、導入社数が少なく、業界も多岐にわたるホリゾンタルSaaSの場合、そうは言っても、ということは往々にして起こると思います。
高田さんの仰る通り「まずは売ってみるしかなく、『PMFするまでは攻めるべきではない』と難しく捉え過ぎないことも重要だと思います」ですので、最終的にはPMFはケースバイケースです。
Fail Hard. Fail Fast. Fail Oftenで、狭い業界で悪いレピュテーションが広まらない限りは、傷つくことを恐れず顧客とのインタラクションを重ねてプロダクトをブラッシュアップしていくことが大事だなと改めて感じました。(DNX Ventures 稲田 雅彦氏)
※1 自社について説明する短いプレゼンテーション
※2 必要最小限の機能だけを搭載した製品