※本記事は、2021年9月25日刊行の定期誌『MarkeZine』69号に掲載したものです。
「販促の設計図」になぜ営業は不要なのか
アドバンド株式会社 代表取締役 中野道良(なかの・みちよし)氏
1970年高知県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。印刷会社で写真製版のオペレーターとして勤務後、グラフィックデザイナーをめざして専門学校に入学する。飲食店や出力センターでのアルバイトを経て、デザイン制作会社に入社。広告代理店や大手印刷会社からの下請けとして、企業や教育機関のパンフレットの企画・制作に従事する。社長の右腕として9年半勤め、2005年に個人事業主として独立。翌2006年、アドバンド株式会社として法人化を果たす。下請けをせず100%直販、営業を置かないユニークな体制で、上場企業を中心とした取引先を次々と開拓。最大の強みは、「販促の設計図」を用いた独自のマーケティングにある。
――かつては対面や電話を使った活動が多かったBtoB業界も、Webを中心としたデジタルマーケティングが浸透してきました。その一方で、マーケティング投資をしてもなかなか売上につながらず、苦戦している企業もあるのが実態です。まず、そうしたBtoBマーケティングの課題とその原因についてどのようにお考えでしょうか。
BtoBのデジタルマーケティングの現状を見ると、Webマーケティングを売りたいと考えている「発注先」、そしてWebマーケティングを展開して顧客開拓を望む「発注元」、それぞれに課題があります(図表1)。
まず発注先の課題ですが、端的に言えば、その企業に合った全体最適の観点でマーケティングの仕組みを作れる企業がいないことです。広告代理店、制作会社、SEO業者、マーケティングオートメーション(MA)ベンダーなど多種多様な企業が乱立していますが、ほとんどの企業は「クライアント企業の課題を解決すること」ではなく、「自社の商品を売ること」をミッションに営業活動を行っています。発注元企業は、そうした発注先企業のセールストークに振り回された結果、必要のない仕組みを導入することになったり、無駄な部分に投資をしたりなどの事態に陥ることもあります。
発注元も同じで「全体をわかっている人がいない」という点が最大の課題です。中小企業の経営者でも、全体をしっかり把握しているケースは少ないのではないでしょうか。その結果、思いつきで「コーポレートサイトを刷新しよう」「ランディングページ(LP)を作ろう」などと発注し、戦略がないまま、なんとなく「これが良さそう」と思うことをやっていく。つまり戦術(手段)が先行している状態になってしまっているのです。そうではなく、まず「顧客」「商品」「営業」という3つの視点でビジネス全体を見て、交通整理する(=戦略を描く)ことが必要です。
――そこで中野さんが提唱しているのが「販促の設計図」ですね。営業担当者がいなくても、次の商談や成約を自動的に生み出す仕組みとのことですが、この販促の設計図はどのようなもので、なぜ必要なのかを教えてください。
まず必要性についてですが、これは私自身の経験に基づいています。私は以前、編集プロダクションや広告代理店の下請けをしている制作会社に勤務していました。ITや建設業界も似たところがありますが、制作業界も下請けに作業を委託して中抜きする構造になっていて、私たちクリエイターは営業が取ってきた業務をやるというスタイルでした。この「右から左に流す」という構造が問題だったのです。
結局、元請けにしろ自社の営業にしろ、制作の細かいところがわからないから、発注しているお客様側から見ると、「あなたでは話にならない、現場の人間を連れてこい」ということが起こります。商品が単純な時代であれば、作る側と売る側で担当が分かれているほうが効率がいいのですが、今はあらゆる製品・サービスが複雑化しています。製品・サービスのことを一番よくわかっている作る側、現場の人間がセールスするほうがいいのです。
営業部門には「マーケティング」と「セールス」という2つの機能があります。マーケティングは会社全体で、経営層が中心となってしっかり仕組みを作れば、商談時点で相手の期待度を高めておくことができますし、たとえすぐには成約できなくても、次の商談機会を自動的に生み出すこともできます。多くの中小企業では、営業部門に新規開拓と商談と成約を全部任せていると思いますが、こうしたマーケティングの仕組みを作ることができれば、セールスは限りなく不要になります。