コンテンツの「一方通行」から抜け出す
日経もこのような未来や日本語の限界を見据えて、2015年に約1,600億円でイギリスの経済専門紙の「Financial Times(FT)」を買収していた。ところがFTも親の日経と似たり寄ったりで、FTの2020年における有料デジタル版は前年比でほんの6%程度(1年で約5.5万件増、総計96万件)の伸びだった(参照:To Ratchet Up Retention, the Financial Times Restructures Its Consumer Revenue Team)。特需の1年間で、日経とFTを合わせて伸ばしたデジタル・ユーザー数は、NYTの伸び約230万件の20分の1にも満たない(参照:The New York Times Company 2020 Annual Report)。
日経やFTが提供する秀逸なコンテンツは、課金に値する魅力がないわけではない。単なるコンテンツ(それがテキストであれ、写真やビデオであれ)を一方通行でプッシュし続けるメディアの事業モデル自体が、有料購読者が増えないことによる大きな負債に変化しているのだ。「一方通行でボールを受け取るだけ」のスポーツのようなスタイルや、プッシュ・サービスを配ることが、「価値がある」オンライン・ビジネスとは考えにくい。
「双方向」を実現するために、NYTでは実際に、必ず記者のプロフィールを紹介して読者が自己の好みを選択できるブランド化に務める。骨太な論調に対しても、読者側にその記者と「対話ができるサロンコーナー」を開設しているのが人気だ。未来の読者である学生に対しても「夏休み中のビジネス177の質問」を投げかけて意見を聞いたり、「無料のライティング講座」を中・高校生向けに自主開催したりと、潜在ファンを育成している。
日経をはじめ、日本の新聞出身のメディア企業は、旧来の「プッシュ型+配信・広告」の収益刈り取り型から、読者が属することを誇らしく感じられる「双方向のコミュニティ」の育成型へマインドを切り替えることが必要だ。
実は日本には欧米に比べてさらに有利な背景もある。日本の新聞社系メディアには、「双方向化」が先発で進むテレビ局をグループに持つ新聞企業体も多い。欧米よりもさらに一歩進んだ新しい事業体を作れる可能性を持っているはずだ。