ブランド評価を立体的にする3つの指標
EvokedSet共同研究プロジェクトでは、引っ越し業者から化粧水、歯磨き粉、風邪薬など様々なジャンルでブランドカテゴライゼーションに基づく調査を実施している。もともとエボークトセットは、アカデミック分野から派生した考え方。よって、産学協同研究を行い、知見を蓄積しながら具体的なマーケティング活動に役立てていく方法や指標が作られている。
具体的な調査スキームとしては、購買意思決定プロセスのうち、特にブランドカテゴライゼーションにおける意思決定を細かく観察し、カテゴライズに属する3つの指標と独自抽出した1つの指標を用いる。
ブランドカテゴライゼーションとは、購入するブランドを絞り込む一連の流れのこと。人が何か商品を購入する場合、まず名前を知っているブランド群「知名集合」が思い浮かぶ。これは「名前を知っているか、知らないか」を判断するフレームワークであり、名前を知らないブランドは「非知名集合」となる。
知名集合から一歩進むと、実際にどのようなブランドなのか特徴を知っている「処理集合」に分けられる。名前は知っているものの、具体的にどのようなブランドか知らない場合は「非処理集合」に入り、そのまま忘れ去られる。
そして最後にようやくエボークトセット=「想起集合」となる。これは、「ブランドを知っていて、かつ購買時の候補として想起される」というブランドの集合体で、購買時の選択候補になるブランドリストだ。
同社では、このエボークトセットという指標を軸に据え、ブランド認知の入り口となる知名集合も重要指標と定義している。さらに、処理集合の中から「他人に勧めたり、SNSで拡散したり、いいね! をしたりするブランド」として想起されるブランドを「推奨集合」と名付け、この3つをブランド活動の指標としている。これを使うことで、ブランドを立体的に評価できるのだという。
これまでの分析・解析から判明した2つのこと
ここまでで、単に「想起される」だけではブランドパワーは弱いことがわかった。松田氏は、「想起されるだけでなく、購買候補として真のエボークトセットに残るには、この枝分かれをクリアしなければなりません。一部のブランドしかエボークトセットに残らないのです」と強調する。
たとえば歯磨き粉の場合、エボークトセットのトップブランドは「クリニカ」となっている。これは、「歯磨き粉」と聞いて真っ先に思い浮かべたブランド名で、「GUM」「シュミテクト」が続く。これが推奨集合になると、順位は変わり「シュミテクト」「GUM」「クリニカ」の順になる。松田氏によると、自分が購入するものと人に勧めたりSNSで拡散・反応したりするブランドとの間には、微妙なズレが見られるという。ネオマーケティングでは、こうした調査結果をあらゆる角度から分析・解析しており、松田氏は「こうした研究を重ねるうちに、判明したことが2つあります」と次のように説明する。
第一に、1つの商品カテゴリに対し、エボークトセットとして挙がってくるブランドは、平均して1~2個しかない。調査結果によると、エボークトセットに含まれる平均ブランド数はスポーツドリンクなら1.6、アウトドア用品だと1.3、ビールやコンビニだと2.3というように、大体1~2個であるという。
ここからわかったのが第二の気づきで、それは「エボークトセットと第一想起されるブランドには相関関係がある」ということだ。ブランディング戦略では、「第一想起されるブランドを目指せ」とよく言われるが、調査結果を見ても、エボークトセットでトップとなったブランドが第一想起されているケースが多いという。
たとえば、下のグラフは、薄いピンクの軸が「そのブランドをエボークトセットに含む人の数」で、濃い赤の線が「第一想起をした人の数」を示している。風邪薬で見ると、「パブロン」をエボークトセットに含めたのは316人、うち251人が第一想起した人数となる。一部例外はあるにせよ、「エボークトセットに入るブランドが、第一想起ブランドになる」という傾向は極めて強く、この関連性については引き続き調査をしている最中だそうだ。
「つまり、消費者に選ばれるためにはエボークトセットの1~2個の商品に入っている必要があります。さらにその中から選ばれるためには、いかに第一想起されるかがポイントになります。そのため、ブランド戦略においてエボークトセットと第一想起の2つはとても重要な指標になります」(松田氏)