表現における「ベネフィット」と「コミュニケーション」の違い
「『山﨑さん、toCからtoBに転職されて、テレビCMの作り方は変わりましたか?』こう聞かれたことが、今回のセッションテーマが決まったきっかけです」。heyの山﨑氏はこのように切り出した。
同社が展開する「STORES」は、「ネットショップ開設」「ネット予約システム」「キャッシュレス決済」「POSレジ」という4つのサービスを持つ、事業者のデジタル化を支援するプラットフォームだ。
山﨑氏が前職時代にCMを通じてヒットさせたのはBtoCプロダクト。しかし、BtoBプロダクトを提供するheyに移ってからの経験を振り返っても、CMの作り方は「変わらない」と答える。toC、toB問わず、広告表現をする際に意識しているのが「ベネフィット」と「コミュニケーション」だという。
「ベネフィットとは、顧客自身が感じる価値であり、その商品を使う理由になり得るものです。コミュニケーションとは、ベネフィットを伝える演出、興味を持ってもらうための工夫だと定義しています」(山﨑氏)
ここで山﨑氏は、実際に放映された「STORES」のCMを流し、そこに埋め込まれたベネフィットとコミュニケーションについて解説した。
「無料で簡単に始められること。電話で相談できること。これが、ネットショップ開設支援において、数あるECツールの中でSTORESを使う理由になり得るベネフィットとして設定しています。それを伝えるためのコミュニケーションとして、『商売繁盛』という言葉と、お笑い芸人のアンジャッシュ児嶋さんがお祭りの法被を着て街を盛り上げるという演出をしました」(山﨑氏)
ベネフィットとコミュニケーションは、気を付けて考えていかないと混同しやすい。社内で議論する際も、ベネフィットの話なのか、コミュニケーションの話なのかに注意する必要がある。
広告表現の4タイプを押さえる
では、実際のテレビCMは、どのように設計していくべきなのだろうか。具体的には、テレビCMをはじめとする広告表現の種類を、ベネフィットとコミュニケーションのマトリクスで分類すると良い。
第一に目指すべきは、コミュニケーション、ベネフィットともにあるCMだ。おもしろく、商品を使いたいと思うような「成果が出るCM」となる。2つ目は、コミュニケーションがなく、ベネフィットがある「既存市場CM」だ。おもしろさや印象に残るものはないが、使いやすそうといった便益が伝わるコンテンツとなる。一方で注意すべき点もある。
「既にネットショップを検討している方にとっては、ベネフィットが伝わるだけでいい。ただ、まだ検討していない潜在層に対しては、コミュニケーションがないとその商品の良さが届かないんです。その意味で、コミュニケーションがなくベネフィットがあるCMは、既存のマーケット、特に利用意向度が高いお客様には“すっと入る”一方で、それ以上の広がりはなくなってしまいます」(山﨑氏)
3つ目は、コミュニケーションはあるが、ベネフィットがない、いわゆる「おもしろいCM」だ。見ておもしろく、SNSでシェアされやすいが、特にその商品を選ぶ理由がないパターンだ。話題にはなっても、事業成果に結びつかない。4つ目が、コミュニケーションもベネフィットもない「無視されるCM」である。これは言わずもがな、避けなければならない。