広告業界の歴史がオンオフの分断を生んだ
デジタル(オン)とオフライン(オフ)を統合したマーケティングの実践はいまや普通のことになっているが、本質的な意味でそれに向き合えているかと問われたらどうだろうか。
「真のオンオフ統合マーケティング」というテーマが掲げられたこのセッションでは、2018年10月にアライアンスを発表後、約3年にわたって企業のオンオフ統合のマーケティング支援を行ってきた電通とセプテーニの協業実績を通して見えてきた内容が伝えられた。
登壇者である電通の中野氏とセプテーニの若月氏も、日頃からクライアントに向き合う中で、真のオンオフ統合の実践に課題意識を持っているプランナーだ。協業後はそうした課題解決のため、定期的に両社のプランナーによる会を設け、事例の共有や実行面で何が必要かを議論しあっている。
そこで議論を重ねる中で出た1つの見解が、「『オンオフ統合』を実現するのは『オンオフ統合』を意識しないこと」だったと冒頭で若月氏は話す。その答えは、協業を通して得られたリアルな声から結びついたそうだ。
では、なぜ今オンオフ統合の必要性が取り上げられるのか。そこには「メディアの環境の変化、アプローチ手法の多様化、購買に至るまでのカスタマージャーニーの変化にともなってマーケティング手法が多様化・複雑化している背景が関係している」と中野氏は説明する。
そもそもオンオフ、つまりテレビとデジタルの分離は、広告業界の歴史が生んだ構造と言える。1950年代頃からテレビを中心に続いてきた広告環境は、1990年代頃にインターネットが登場したことで大きく変化し、デジタル専業の広告代理店の登場や広告主のデジタル担当の設置をもたらした。
デジタルの広告市場はオフラインメディアと一線を画して成長し、双方の分断状態が続いたままメディア勢力図も変化していった。
デジタルが広告費・接触時間でテレビを追い越す、テレビのリーチ力が昔ほど発揮できなくなるなど、時代とともにメディア環境が変わってきた。しかし、中野氏によれば「広告代理店あるいは広告主側における体制面、戦略設計の分断構造は変わらず今に至っている」のが実態だという。
分断構造がもたらす5つの問題
この分断構造は、マーケティングに「戦略の分断」「コミュニケーション分断」「手法の分断」「評価の分断」「コミュニケーション・オペレーションコストの増大」といった問題を引き起こした。
事業目標に対して総合代理店・専業代理店に領域が分かれていれば、ファネルの特定部分やそれぞれの得意領域に偏り、一気通貫した戦略設計が描けなくなる。そうなると、具体的なコミュニケーション設計に関しても分断したまま非効率な状態で進んでいく弊害も生じる。
また、マーケティング手法を選ぶときも、代理店あるいは担当者間でテレビとデジタルの予算の引っ張り合いになってしまいニュートラルに手段が組めず、評価手法も異なることから、全体を通しての媒体効果が見えづらいという問題もある。広告主のオペレーションコストが大きくなるのも明らかだ。
「分断構造は、生活者にも分断されたブランド体験を強いてしまっています。分断して対立したままでは、本質的なマーケティング活動はできません。事業成長という目的を最大化するために、オンオフの境界線を取り払った『オンオフ統合』のニーズが高まっているのではないでしょうか。今は本質的なマーケティングを行う転換期にあると考えています」(中野氏)
「オンオフ統合を意識しない」ためにすべきこと
ではオンオフ統合とはどのように実現できるものなのだろうか。これについて若月氏は、「オンオフ統合という言葉に囚われすぎないで欲しい」とメッセージを投げかける。
「『オンオフ統合』という言葉が先行してしまうと、『なんのために統合するか』の目的が置き去りで解のない言葉追及に走りがちです。同様に、オンオフ統合に関わる手段に囚われすぎてしまい、手段ファーストに走ってしまう罠にもはまってしまうのです」(若月氏)
電通とセプテーニが協業を進める中で、若月氏たちが本質的なオンオフ統合の1つの解として提示したのが、「“真のオンオフ統合”=クライアントのビジネス成長への貢献」だ。つまり、事業成長のためにオンオフの垣根なくプランニング・実行をしていくという。
「電通とセプテーニで一歩ずつ境界線を取り払いながら、 “真のオンオフ統合”に向き合う統合戦略パートナーを目指して日々実践している最中です。分断していたものを統合化するのは生易しいものではありません。実践面ではまだ道半ばの段階ですが、クライアントの皆さんからは良い声をいただいていて、確かな手ごたえは感じています」(若月氏)
真のオンオフ統合実現に向けて壊すべき5つの壁
協業を通して見えてきたのが、真のオンオフ統合を阻む壁の存在だ。具体的には、5つの壁を取り払うことが、真のオンオフ統合実践のためのスタートラインになるという。それぞれの壁とそれをどのように打破していくのか、方法を教えてくれた。
1つ目の「チームの壁」は、他の壁を取り払う上でも重要になる。電通とセプテーニの協業案件では、ワンチーム体制を取って対応している。
具体的には、窓口となる営業を一本化。両社からプランナーを出してアイデアを出し合う。中野氏は「お互いに持っている手法・知見を統合し、これまで以上にオンオフをニュートラルに手段設計することが可能になった」と説明する。
「広告主を含めた3社で同じ結果を共有することが、非常に重要だと気づかされました。これにより目線を合わせどこに課題の本質があるのか、どんな戦略を立てるべきかを考え、オンオフ統合したPDCAを回せるようになってきています」(中野氏)
また、広告主側の担当がテレビとデジタルで分かれている場合、両者の間を取り持つ接着剤的な役割を担うケースも生まれているという。
続いて若月氏は、2つ目の壁としてマス/デジタルの「出自の壁」を挙げた。これまでのキャリアでマス/デジタルのどちらに関わってきたかによって、両メディアに対する知識・経験値にはどうしても差が生じる。
「マスVSデジタルの構造ができる一因は、それぞれの媒体への不理解にあると思っています。大切なのは、テレビ・デジタルの二頂対立・二者択一ではなく、それぞれの得意技の理解と活用方法を踏まえ融合させたプランニングです。その前段階で媒体に対する正しい理解を双方が共有しあうことも大切でしょう」(若月氏)
最近では、マスでリーチを取るに値する訴求かどうか事前にデジタルで検証した上で、結果をもとに成功可能性の高いプランニングを立てる方法も採用しているとのことだ。
ビジネス成長に貢献する“真のオンオフ統合”への挑戦を続けていく
3つ目の「立場の壁」、これはなんとなく起こりがちな主従関係のことを指す。
「たとえば、案件がどちらから発生したのか、どこがマスのクリエイティブの企画を握っているかによって、タテの関係が生まれるのはよくあることではないでしょうか。ただ立場の壁があるままでは、意見をぶつけあって双方のシナジーを掛け合わせた最適解は導けないと感じています」(中野氏)
電通とセプテーニは協業を通じて、両社のプロフェッショナルが対等に議論できる体制を構築。目的最大化のための気づきや糸口が生まれることを実感できているという。中野氏は「こうしたカルチャーを両社のプランナーやクライアントも巻き込みながら浸透していければ」とした。
4つ目の「ファネルの壁」は、総合/専業それぞれが特定(得意)なファネルに偏りが生じることで、マーケティングファネルの中でのプライオリティがつけられない課題を指す。若月氏によれば、電通とセプテーニは協業を通じてファネルの壁も取り払う取り組みができているという。
「我々は、ファネルニュートラルで捉えながら事業達成のためのプランニングを行います。広告主×電通×セプテーニでユーザーを理解した上で、KGIに対するファネルの中での優先度、課題特定、手段、KPIを3社間で目線を合わせながら進めています」(若月氏)
各社最適な正解を導く
最後、5つ目の「ソリューションの壁」は、統合的なマーケティングを実現するために代理店個社で持っているソリューションを分け隔てなく利用できる状況や環境を作ることで破ることができる。
それによってファネルを通じた一貫したプランニング、ファネルごとに個別最適化していく高度な対応ができるようになったという。
5つの壁それぞれの壁の取り払い方を説明した後、中野氏はこれらの壁を取り払うメリットを解説した。
「これらの5つの壁は、どちらかと言えば代理店側の都合で、広告主には本来関係ないものに見えますが、取り払うことでクライアントへ提供する価値向上、ひいては統合戦略パートナーとしてクライアントのビジネス成長への貢献につながると考えています」(中野氏)
これらの5つの壁は、企業によって取り払う難易度もそれぞれ違うことだろう。中野氏も「真のオンオフ統合をするために、実際には事業フェーズや状況、目的やKPIによって打ち手も変わってくるので、方程式があるわけではない。100社あれば100通りのやり方がある」と語っている。電通とセプテーニは、広告業界の歴史が生んでしまった弊害を壊すために、協業し70社以上と取り組みを行ってきたのだ。
最後に中野氏は、今後の展望を語りセッションを締めくくった。
「電通とセプテーニは、総合戦略パートナーとしてクライアントのビジネス成長への貢献に向き合っていきたいと思います」(中野氏)
今回のセッションのアーカイブ動画を公開中!
現在セプテーニのWebサイト内で、今回のセッションのアーカイブ動画を公開しています。より詳細な内容を知りたいという方は、ぜひアーカイブ動画をご覧ください。
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