ECとD2CとDNVBの違い
DNVBについて説明すると、反射的に「つまりいわゆる通販(EC)のことですよね?」「D2Cと何が違うのですか?」といった質問が返ってきます。そこでDNVBを理解するために、まずはEC、D2C、DNVBの特徴的な違いをみていきましょう。
EC(Electronic Commerce)とは、厳密には販路の話です。たとえば、マス広告をうち、自分たちのECサイトにアクセスして購入してもらったり、コールセンターで電話を受け、欲しい商品を聞いて発送したりすることをECと呼びます。
そしてECに加え、SNSやデジタル広告を使って広報、販促をし、それをきっかけに消費者が購入を行う。場合によってはショールームを持つパターンをD2Cと呼びます。今までECと呼ばれていたサイトでも上記のD2Cのような施策を一部取り入れていましたが、基本的には販売促進がメインでした。単なる販売としてのチャネルだけでなく、原則ほかのメディアを介さず、自分たちのストーリーやこだわりなどの情報をできるだけ直接伝える情報のチャネルと、EC的にモノを直販するパターンをミックスしたのがD2Cです。典型的なD2Cのパターンは、オウンドメディアやSNSがあり、インフルエンサーがいて、それらの情報に消費者が触れ、ECサイトで直接購入するという形です。情報を直接消費者に届けられる形で、なおかつ直販の形がとれるのがD2Cの特徴です。
ECやD2Cの世界では「どんな投資をすれば何人くらいの購入があり、何円売り上げる」という、効率を上げ利益を追い求める、パフォーマンス・マーケティングの考え方が中心です。ECとD2Cでも当然ブランディングを行っていますが基本的にはパフォーマンス・マーケティングが支配的です。
一方、DNVBはEC、D2Cと異なり、中長期的にブランド価値の創造と改善を目指すブランド・マーケティングの考え方を取り入れております(図表1)。

まずECが流通のチャネルとして登場し、2008年頃、そこに情報のチャネルが加わりD2Cが誕生しました。さらに、1.サービスのチャネル、2.哲学のチャネル、3.バリューチェーンの垂直統合が加わったことがDNVBの大きな特徴です。
1.サービスチャネル
DNVBは商品を売るだけでなく、それ以外に無料や有料でサービスがついてきます。たとえば米国発のDNVB「Peloton」は、自宅用エアロバイクを展開していますが、ハードウエアだけでなく、エクササイズのためのオンライン動画サービスや、同じクラスを受講している人同士でつながることができるコミュニティサービスなどを提供しています。また、配送用のバンまで自前で構築し、配送もサービスの1つとして捉えています。
つまり、これまでEC、D2Cは一方的に商品や情報を届けるチャネルだったのに対し、サービスをインタラクティブに届けることができるようなチャネルを複数持っていることがDNVBの大きな特徴といえるでしょう。
2.哲学チャネル
D2Cでは、ブランドに共感してもらうために、ストーリーやこだわりといった「dos」の側面を発信しがちです。しかし、そのようなブランドが増えた結果、生活者はストーリー疲れを感じています。クラウドファンディングをはじめとして、ストーリーの発信があふれているため、ストーリーだけでは共感を呼びづらくなっています。
そこでDNVBでは「何をやらないか(don'ts)」という強い哲学を発信しています。たとえば、アウトドアブランドのCOTOPAXIは「店舗は増やさない。その分、リアルな体験(イベント)を楽しんでほしい」という哲学を持ち、Questivalと呼ばれるイベントを行っています。その哲学によって熱狂的なユーザーが自らInstagramなどでイベントの内容を拡散し、広げてくれるのです。これがDNVBの哲学を構築していく際の重要なユーザーインサイトです。これまでのD2Cのように「自分たちのストーリーやこだわり、時間をかけてやっていることを一方的に発信すればよい」という考え方とは根本的に異なります。
3.バリューチェーンの垂直統合
DNVBはその名称に「vertical(=垂直の)」を含んでいます。これは製造から販売、カスタマーサポートまで、自社のバリューチェーンのすべてを顧客体験として捉え、すべてのタッチポイントで顧客の一次情報を取得しながら、顧客体験を改善しているという特徴を表現しています。だからこそ前述したPelotonは配送も自社で行い、直接顧客とやり取りをすることで一次情報を集めています。
たとえば、製造業がPOSデータを取得しようとすると、他社の持つデータを購入しなくてはなりません。こういった他社の保有する情報は一次情報ではなく、三次情報と呼ばれます。これを自社で取得できれば、一次情報になります。この他社が保有していない、独自の一次情報をもとに顧客体験の改善を繰り返すことで、他社が模倣できないレベルまで磨きあげられた顧客体験を創り出すことができます。当然、あらゆるタッチポイントから情報を取得することは労力がかかり、その分スケールしにくくなるため、D2Cのパフォーマンス・マーケティングの世界では、データを取得することよりも、売上・利益を上げようという考え方をします。
しかし、DNVBは必ずしもすぐに売上・利益を上げようとはしていません。熱狂的な顧客とのすべてのタッチポイントから、一次情報を取得して顧客体験を改善するという一見面倒なことを目指すのは、DNVBはパフォーマンス・マーケティングではなく、ブランド・マーケティングを重視しているからです。このようにD2C→利益の効率性を求める=パフォーマンス・マーケティング(ビジネス投資)、DNVB→利益の効率性は求めない=ブランド・マーケティング(ブランド投資)という風に私は峻別して考えます。