競技出場から健康維持まで、ランナーの多様な目的に対応するサービスを拡充
さらに2021年11月16日(火)、アシックスはこれら2つのサービスに加えオーストラリアでシェアナンバーワンを占めるレース登録サービス「Register Now」の買収合意を取り付けた。

富永氏は「3つのサービスとOneASICSを連携させることにより、ランナーのジャーニーをより正確に捉えることができるようになる」と語る。会員がランニングする頻度や出場したレースの結果、シューズの購入時期などの情報を基に、新しいシューズの案内やコーチによるアドバイスなどのコンテンツを最適なタイミングで配信できるというわけだ。
また、ランナーの各レイヤーに対応したサービスも拡充している。たとえば、競技志向の強いランナーには有償メニューの「ASICS Premium Running Program」を用意し、カシオと共同開発したランニングデバイスを通じて「どこでスピードが落ちたか」「どこで歩幅が小さくなったか」などを測定。そのデータを基にアシックスのランニングコーチやトレーナーがアドバイスを提供した。

ランニングクラブに属するユーザーにはSNSとの連携機能を通じ、記録のシェアなど仲間とのコミュニケーションを促進。健康維持が目的のランナーには楽しくランニングを続けてもらえるよう、バーチャルレースの取り組みを強化していった。
「これまでのOneASICSは『ポイントがもらえる』『ECサイト利用時の配送料が無料になる』といったベネフィットを中心に提供していました。Runkeeper、Race Roster、Register Nowと連携すれば1,000万人に近い方々とデジタル上でつながることができるようになります。今後は足形計測やパフォーマンスチェックなど、アシックスが提供するすべてのサービスをランニングエコシステムに集約し、ユーザーにストレスなくアクセスしていただけるよう仕組みを整えていきたいです」(富永氏)
デジタル化で苦労した社内理解の形成
コロナ禍ではランナーおよびアシックスにとって厳しい状況が続いたが、一昨年、昨年と遠隔地にいる人々とたすきをつなぐことのできる「ASICS World Ekiden」を企画。最大6名のチームでエントリーし、メンバーがそれぞれ5~10kmの区間距離を走ることで合計42.195㎞を完走するバーチャルレースだ。ここでもRunkeeperやRace Rosterを活用し、学校や職場でなかなか会えない知人とのランニング機会を創出し、2020年は5万6,000もの人が参加した。

「OneASICSの成功はデジタルビジネスの成功を意味する」と語る富永氏。全社的なデジタル化の道のりにはどのような課題があったのか。セッション終了後の個別取材で深掘りした。
MarkeZine編集部(以下、MZ):OneASICSのサービス拡充を進めるにあたり、特に苦労した点はありますか。
富永:社内の理解形成ですね。ECサイトを強化する時にも「実店舗からすると売上が取られてしまう」という反発はありましたが、OneASICSの取り組みに対しても「何のために?」という疑問の声が上がりました。そのような反発や疑問に対しては店舗のKPIを整備したり、Webでの取り組みが実店舗にもたらすメリットを啓蒙したりしながら地道に理解を得てきましたし、正直今もこうした活動は続けています。
また、買収したサービスの既存ユーザーに対しても心を配りました。RunkeeperやRace RosterにおけるOneASICSメンバー比率は1割程度だったため、アプリや大会自体が好きでサービスを利用している方が、アシックスからの情報提供に抵抗を感じてしまうかもしれないからです。シューズの替え時にその方の走り方に合った商品をレコメンドするなど、提供する情報に価値を感じていただけるような工夫を行っています。