走行距離や出場レースも把握可能に マーケティングの効率は飛躍的に向上
富永:OneASICSの会員数は現在500万人で、RunkeeperのMAUとRace Rosterの年間利用者数を合わせると約1,000万人になります。たとえば1,000万人の方が毎年1万円のシューズを購入してくださると1,000億円になり、さらにOneASICSと各アプリのシナジーを活かした1万円のサブスクリプションサービスを利用してくださると2,000億円になる。弊社の売上規模を考えると、相当なインパクトと言えるでしょう。

富永:「アシックスの色が付くなら他のプラットフォームを使う」と思う方がいても、長期的な視点でビジネスの成長を考えた時にチャレンジする価値はあります。その考え方を社内に定着させるまでは時間がかかりました。
MZ:デジタル戦略の目標として「マーケティングの投資対効果向上」を掲げていましたが、現時点でどのような成果を感じていますか。
富永:以前は卸経由のビジネスが売上の大半を占めていたので、いつ誰に何が売れたのかを今ほど正確に捉えられていませんでした。OneASICSによって属性や購入履歴を把握でき、さらにRunkeeperやRace Rosterとの連携によって走った場所や出場したレースの情報まで紐付けることができる。これは大きな進歩だと感じています。
これまではオリンピックや東京マラソンなど、大型スポーツイベントへのスポンサードを中心に多くのマーケティング予算を投じてきました。今はRace RosterやRunkeeperでレース出場の6ヵ月前からお客様とつながることができ、ランナーにターゲットを絞ってマーケティングを行えています。スポンサードももちろん大事な広告手法の1つですが、効率という点ではデジタルを活用した手法に段違いの効果を感じていますね。
アセットをフル活用し体験価値の向上を目指す
MZ:最後に、マーケティング全体で取り組んでいきたいことについてお聞かせください。
富永:エンゲージメントの高いランナーを増やすために、アルゴリズムを高度化して情報の提供スピードを上げていきたいです。たとえばASICS Premium Running Programでは、デバイスを通じて得たデータを手動で担当者に送信し、腕の振りや左右のバランスに関するアドバイスを提供していました。今後はここを自動化し「あなたの走りはこうでした」という成績表をレース終了直後に即時提供できるようにします。
また、ECサイトの購買体験をさらに向上させたいです。特にシューズの購入時、サイズ選びに不安を抱える方は多いのですが、アシックスの直営店で1度「3次元足形計測」をすれば、そのお客様の「ラスト(靴型)」を記録しておくことができます。今後はラストに基づいて「このシューズなら26」「このシューズなら26.5」というようにシューズごとの最適なサイズを提案し、オンライン購入時の制約解消に努めます。

データ活用は販売員の教育にも展開できると考えています。売れる販売員はランナーの特性をしっかり理解しているので、彼らのナレッジとOneASICSで集めたデータを掛け合わせることで、全体的な接客の精度を上げていきたいです。
たとえ他ブランドのシューズに浮気されたとしても、コーチングや接客、情報提供などの“体験”は1度価値を感じてもらえると継続利用が見込めるので、引き続きアセットをフルに活用して体験向上を目指します。