※本記事は、2021年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』72号に掲載したものです。
未曾有の事態から不確実な未来へのヒントを得る
2020年の初めから世界規模で感染が広まった新型コロナウイルスは、拡大と落ち着きを繰り返し、2年が経過しようとしている。思い返せば、日本で新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、未知のウイルスに直面した我々生活者は心理的にも、行動的にも混乱の渦中にいた。
また、感染拡大防止のための国・地方自治体の施策、SNSによる情報拡散の影響に加えて、ステイホームの意識の高まりやリモートワークの浸透などによって、ライフスタイルも変化した。2020年はこのような変化がほんの1〜2ヵ月の間に起こった、まさに未曾有の事態であった。
生活者行動研究の観点では、非常に大きなインパクトが生じた状況下での消費者行動を振り返ることは、今後生活者が未知のリスクに直面したときの行動予測に役立つ。新型コロナウイルス感染拡大初期の「混乱期」から、何度かの拡大と落ち着きを繰り返しながら至る「順応期」までの行動変遷を捉えることを通じて、未来を洞察するヒントが得られるのである。
本稿では、より生活者に身近なレベルで環境変化を捉えるために消費財の購買に着目する。心理学者アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」(図表1)の生活者が持つニーズ(欲求)の分類のうち、消費財は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」といった、生命や生活維持の欲求充足に関わってくる。
多くの未曾有のリスクは、基礎的な欲求の充足・未充足に強く影響する。消費財の購買傾向を捉えることは間接的に、基礎的な欲求の変化やパターンの考察につながる。
感染拡大により受ける影響を「類型化」する
消費財の購買変化を捉えていく上では、単一の商品カテゴリーではなく、「連動して動くカテゴリーは何か」という視点に着目することが有効だ。連動して動く商品カテゴリーは「食品」「飲料」「トイレタリー」という分類でまとまることもあれば、それらが混在することもある。商品カテゴリーに跨って存在する「共通性」に目を向けていくことで、「生活者がどのようなタイミングで、何を求めていたか」が見えてくる。
今回は、新型コロナウイルスの感染拡大前と拡大後の商品カテゴリー別販売金額の変化に基づき類型化を行った。データは弊社が提供するSRI+®(※1)を利用する。
分析は図表2のように、2つのステップで行う。
1番目のステップでは感染拡大による影響度を算出する。まず、日本国内における感染拡大前の期間として2017年1月2日〜2020年2月23日の各商品カテゴリー(約300商品カテゴリー)の販売金額の週次時系列データを準備する。
続いて、この学習データを入力として、時系列予測モデル(状態空間モデル)を構築する。このモデルに基づき、感染拡大後の期間である2020年2月23日〜2021年3月29日の販売金額予測を行う。このときの販売金額予測値は、感染拡大前のデータに基づく予測なので「仮に新型コロナウイルスの感染拡大がなかったときに想定される販売金額」とみなすことができる。つまり「予測された販売金額」と「実際の販売金額」の差分=「新型コロナウイルスの感染拡大により受けた影響度」ということになる。
このアプローチの強みは「どのタイミングで感染拡大の影響が大きくなるか」を可視化できる点にある。感染拡大後に生じた様々な出来事と対応させることで、変化の背景が考察しやすくなるのである。
2番目のステップでは、統計的な手法(k-means法)に基づき、算出した商品カテゴリーごとの感染拡大影響度を入力として、同じような影響度の変化をたどる商品カテゴリーを類型化する。こうして、「どのような商品が、どのタイミングで新型コロナウイルスの影響をどのように受けたか」を解釈し、インサイトを獲得しやすくするのである。