議論の精度を高めるカスタマーダイナミクス(5segs版)
続いて話題に挙がったのが、カスタマーダイナミクス(顧客動態)フレームワークだ。72号の西口氏への取材記事では、9segsを用いたフレームワークを紹介したが、本ウェビナーでは、9segsのデータがない企業でも取り入れることができる“簡易版”として、5segsのカスタマーダイナミクスフレームワークが紹介された(図表5)。以下、そのポイントを図表に沿って確認していこう。

まず1番。ロイヤル層と一般顧客の中にそれぞれ、自社ブランドやサービスを非常に気に入り、継続購買してくれる層がいる。一方で4番。こちらもロイヤルと一般のそれぞれに、次回購買はしないと心の中で思っている層もいる。売上だけを見てロイヤルユーザー、一般ユーザーと括ってアプローチしてはいけない理由がここにある。
「4番に該当するお客様は、今のところは買い続けてくれていますので、行動データだけを見ていても変化に気づくことはできません。BtoBビジネスでも、長年継続使用してくれていた超ロイヤル顧客と突然契約できなくなることが起こったりします。『サイレント失注だ』などと慌てますが、常にあり得ることなのです。既存顧客が100%永遠に顧客でい続けてくれるビジネスは皆無です」(西口氏)
反対に、すべての離反顧客が二度と戻ってこないわけではない。離反した先で他社製品を使用したり新たな経験をしたり、知識を得たことで、価値を認識して戻ってくることもある。
既に触れた通り、多くのビジネスではWHO/WHATの組み合わせは複数成立している。1番の顧客を動かす戦略と2番、3番の顧客を動かす戦略は、違う可能性が高いということだ。複数のセグメントに有効な顧客戦略が見つかることもあるものの、それを最初から求めると、平均値や合計だけを当てにしたマス思考に陥ってしまう。あくまでそれぞれの顧客の心理状態と自社が提供できる便益・独自性を踏まえて、顧客戦略を一つずつ作っていくのが近道だ。
「9segsのデータを用意できないという場合も、この5segs版を使っていただくことで、議論の精度が相当上がると思います。各種の施策について議論するときには、この表を見ながら、今“顧客”と言っているのはどの状態の顧客なのか、今やろうとしている施策は、何番に位置する顧客に対するものなのか、と確認しながら進めてみてください」(西口氏)