3C分析を逆転。正攻法の逆張りでアプローチしていく
これまでのブランド戦略は「マーケット先導型」だった。ターゲットとすべきマーケットを決定し、そのための競争戦略を立案する。その際に重要なのが、ブランドイメージやロゴといった商品を象徴できる「アイコン」を強くすることだった。しかし、今後は「パーパス(目的)先導型」が主要なブランド戦略になる。
たとえば、従来の代表的なマーケティング理論である「3C(Customer・Competitor・Company)分析」とPJMメソッドを並べてみるとわかりやすい。客観的なマーケティング環境の情報を収集・分析することに主眼を置く3C分析は、市場や顧客、競合の振る舞いを分析し、自社の戦略を立案する、いわば「競争するためのマーケティング手法」だ。

一方、PJMメソッドはこれを逆転させたものである。企業やブランドが自らの存在意義(パーパス)を明確にし、「どのような志を持った存在なのか」を起点にする。そして、カテゴリ内に留まらず、柔らかい視点で、競合やパートナーを再考する。その際、「自社の製品やサービスの役割(ジョブ)は何なのか」「生活者は何を求めて製品やサービスにお金を払ってくれるのか」という視点で考えることがポイント。その上で、生活者と深い接点を持てそうなモーメント(機会)を探すというアプローチだ。
「ジョブの規定を見直すと、今まで『競合』と呼ばれていた存在が変化し、既存のカテゴリ枠を超えた収益源の拡大が可能になります。スペックだけではなく、『なぜ生活者はその製品・サービスを購入したのか』を見直して、その気持ちを理解すれば、競合の軸が1つではないことに気付くはずです。生活者がブランドを手にすることで満たされる『本当の欲求』を見直すと、自分たちのアクションも変化していきます」(藤平氏)
【P:パーパス】自己完結で終わらない、パーパス開発のポイント
では、PJMメソッドで「パーパス」「ジョブ」「モーメント」を定義するには、どのように発想していけばよいのだろうか。
まず、パーパスを定義する際に重要なのは「自社ブランドがどのテーマでリーダーなのか」を自問し、それを社会に対して“宣誓”することだという。自社の注力テーマを社会やブランドに関わる第三者に“愛を持って”宣誓し、目指すべき像を明確化すると、生活者からの応援・支持を得られやすくなる。その上で、そのテーマの中でどのようなことに取り組むのかを具体的に示していくのだ。
この時のポイントは、自分たちの視点だけに偏らないようにすること。ブランドに関わってくれる人の視点、これからの社会を考える視点、生活者が憧れを抱くようなモチーフを可視化する視点、と3つの視点を掛け合わせることで、良いパーパスが生まれる。また、「対抗軸を作る」「思想の次元を上げる」という2つのアプローチも有効だ。その意図について藤平氏は以下のように説明する。

「対抗軸は、テーマの中で自社ブランドの立ち位置を明確にするために用います。もうひとつ、思想の次元を上げるというのは、『一つ上の概念に事業をシフトさせる』ものです。たとえば、博報堂であれば『広告』ではなく『クリエイティブなもの』を作っているのだと宣誓する。こうして生まれたパーパスは、具体的かつ次元が格上げされたものなので、賛同する仲間も集まりやすくなります」(藤平氏)