パートナー選定では「体制」と「当事者感」を重視
クリエイティブ制作に欠かせないパートナーの選定について、石田氏は「体制面をどうマッチするかが重要」だと強調する。マス制作とメディア領域については6社の体制コンペを行ったほか、デジタルメディア領域ではディスカッションに加え定例会形式のコンペも実施。一緒に施策を実施していくチームとして審査したという。

freeeではfreee brand studioと連携してクリエイティブ制作に取り組むほか「パートナーとの連携も大事にしている」と沢村氏。さらにfreeeならではの特徴として、同社のユーザーでもあるフリーランサーや中小規模のプロダクションに依頼することが多い点を挙げる。
「ブランディングでは『スモールビジネスを、世界の主役に。』というミッションにどれだけ共感してもらえるかが重要なので“自分ごと”として考えていただける方と協業しています。その結果、弊社が刊行する『起業時代』という雑誌には、起業時の思いや不安をエッセンスとして反映できました。freeeの組織が拡大するにつれ、自社がスモールビジネスから遠ざかってしまうジレンマを乗り越える意味でも、当事者との協業は重要だと考えています」(沢村氏)

ブランディングでROASやROIをどう測るか
BtoC商材と異なり、すぐにはブランディング施策のリターンを得にくいのがBtoB商材だ。沢村氏は「テレビCMを打ってすぐに売上が伸びるわけではないため、経営陣に得られた成果を説明するのが難しい」と指摘。この課題を乗り越えるために、freeeではブランドサーチリフトのような中間指標を設定している。

「ブランドサーチがどれだけリフトしたか」というKPIを追いかけつつ「いかにlowerに届いているかも意識している」と沢村氏。VTNQ(view through n query)、つまり動画を見た人がどれくらいの確率で検索してトップページに到達したかをカウントするのだ。もちろん、全体のブランドのimpも総合しながらブランドサーチリフトを図っているという。とはいえ最終的には売上に結びつけたいので、KGIとして「ROASの最大化」をゴールに置いている。
実際どのようにROASを見ているのか。デジタルで測れるものはよいが、テレビCMなどはその施策が本当にブランド指名検索を押し上げたのか測りにくい。そこでfreeeでは「Do nothing」という予測値を算出。その施策を打たなかった場合の効果をシミュレーションし、アクチュアルとの差分を純増の効果として評価している。つまり、純増分に対してかけたコストでROASを出していくというわけだ。具体的にはアクチュアルを1つの地域に決め、何もしないエリアを意図的に作り、その差で算出しているという。

石田氏はブランディング施策の効果測定において、認知獲得から受注までの「全体像の設計」と「各フェーズで見るべき指標を明確にすること」がポイントだと述べる。たとえば認知・興味のフェーズでは、ベンチマークとする企業や目標予算に対する進捗度合いなどを追っていった。
また投資対効果(ROI)については「現在実現している粗利だけでなく将来の粗利、つまりある月に受注した案件が解約するまで(解約率より算出)2年間継続した場合の粗利の合計も同時にチェックする」と石田氏。これらをブランディング予算(下図グラフのグレー)と照らし合わせて振り返り、社内に成果を報告する際の材料としているのだという。

前例や定石といえる手法が少ない上、効果を予測しづらいSaaS企業のブランディング。トップランナーといえる2社も試行錯誤を続けているからこそ、挑戦し甲斐のある領域なのかもしれない。