渋滞をフックに見出したインドネシア消費者の困りごと
玉井氏は一連の施策を振り返りながら「広告は最強のセールスパーソンであるべき」と主張。その真意を次のように語る。
「従来のマーケティング活動では、認知と購買の間にタイムラグがありました。私はアメリカの施策で認知と同時に購買を起こしたいと考えたのです。なぜならクロージングをしないセールスはダメだからです。そこでECと連携し、広告を目にした人がすぐに商品を購入できるよう導線設計しました。またオフラインでも、ポッキーの看板広告を通過した車が最寄りのスーパーの駐車場に着いたタイミングでターゲティング広告を配信。売り場の近くで購買を促す仕掛けを作りました。このような取り組みは、アメリカに限らず様々な国で実施しています」(玉井氏)
アメリカと同じくポッキーのグローバル成長をけん引している国がインドネシアだ。江崎グリコは40年以上も前からインドネシアでポッキーを販売。直近3年間の売上は目立った新商品の発売なしに毎年平均1.4倍ペースで伸長しているという。そんなインドネシア市場において、玉井氏はどのように消費者の困りごとを見出したのか。
「現地へ出向いた際、渋滞に巻き込まれたことが困りごとを発掘するきっかけでした。アポイントに間に合いそうにないので取引先に電話をしたら『よくあることだ』と言われたのです。場合によっては所要時間15分の道のりに2~3時間かかることもあると聞き、インドネシア人の生活と渋滞問題は切り離せない関係なのだと知りました」(玉井氏)
さらに玉井氏は翌日の家庭訪問調査で「ポッキーは食べてもボロボロこぼれないのが良い」というコメントを聞き、こぼれにくさと渋滞は好相性だと考えた。インドネシアの若い人を「購買が期待できる層」と見込んでいたため、通勤・通学、特に仕事帰りの渋滞中にポッキーが役立てる余地を見出したのだと語る。
「帰宅中に渋滞すると、空腹でイライラしますよね。そこで『渋滞中にポッキーがあると車内で空腹を満たせて、その場の皆がハッピーになれる』という訴求メッセージに基づき広告を展開したのです」(玉井氏)
また、実際の渋滞中に訴求するのが良いと考え、ASEANで浸透している配車アプリ「Grab」と連携し、大量の車両にカーラッピングを実施。さらに車内販売も可能にし、認知と購買のタイムラグを解消した。
消費者は答えを知っているわけではない
玉井氏は家庭訪問調査において「もう1つ発見があった」と話す。偶然レバラン(ラマダン後の休暇)の時期に訪れた現地家庭でお菓子が並んでいるのを目撃。ユーザーから「ちゃんとした食事の前にポッキーを食べることがある」「ポッキーはほかのお菓子に比べてライトに食べられる」という話を聞いたという。そこで「大切な人同士が集う断食明け(日没後)に食べるもの」としてポッキーを訴求するアイデアが絞り出された。
「朝から何も食べていない人々が日の入り後に突然重たいご飯を食べると体に悪いので、本格的な食事の前にポッキーを食べることを提案しました。日の入り後は人々が帰宅するタイミングで、渋滞中でもあります。ラマダン期間中にテレビCMで訴求を行ったところ、大きな成果につながりました」(玉井氏)
アメリカとインドネシアでの事例を踏まえ、玉井氏は広告を「何らかの困りごとを解決する新しい価値の提案」と定義。その上で「商品には必ず誰かの何かに役立つポイント、すなわち価値があるので、それを諦めずに探し続けることが大切」と強調する。

「消費者が『ポッキーのここが良い』という答えを知っているわけではありませんし、そもそもそんなことを考える必要・義務もありません。彼らはあくまでも受け手であり、主導権を委ねるわけにはいきません。パネルデータと消費者調査の結果があり、広告代理店がいれば、誰でも“それっぽい仕事”はできてしまいます。消費者の困りごとや不満を見出し、自分が関与するからこそ出せる仮説を立て、それを正解に近づけていくことがマーケターや広告担当の存在意義だと思います」(玉井氏)
