商品の特徴に関与できない広告担当者
1966年に世界で初めてのスティック状チョコレートとして誕生した「ポッキー」。玉井氏は、同商品の全世界の広告・プロモーション開発を統括する人物だ。今回はシンガポールからオンラインで登壇する。
玉井氏はまず、マーケティング担当者と広告担当者それぞれにおける商品との向き合い方の違いを解説する。
「マーケティング担当者として商品に携わる場合、商品の特徴から関与することができます。たとえばポッキーであれば『棒状』という特徴に対し『なぜ棒状でなければならないのか』『円盤型にしてはどうか』などという検討が可能です。一方、広告担当者にとって商品の特徴は、変更することができない“前提条件”となります。制約の中で広告を開発していくことが担当者の腕の見せ所であり、やりがいでもあるのです」(玉井氏)
では具体的にどのようなプロセスでポッキーの広告を開発しているのか。玉井氏は第1ステップとして「商品の特徴を踏まえ、機能的価値や情緒的価値を整理する」と語る。
答え合わせのための消費者調査はNG
3つの情報を整理した上で「消費者調査を実施する」と玉井氏。消費者調査で企業が陥りがちな失敗を「機能的価値・情緒的価値の答え合わせ・答え探し」と指摘し、理由を述べる。
「たとえば消費者に『ポッキーはお出かけや旅行先で食べるのに良いと思いますか?』と問うとしましょう。この聞き方では『自分たちが勝手に思っている価値は受け入れられるのでアピールしていきたい』もしくは『自分たちが勝手に思っている価値がちゃんとお客様に伝わっていないから、誤解を解くための訴求をしたい』というアプローチになっていきます。そうやって作られた広告は、企業がただ自分たちの言いたいことを言っているだけの告知物にすぎず、売れる広告ではありません」(玉井氏)
売れる広告を作るためには、どのように消費者調査を行うべきなのか。玉井氏は「お客様の役に立てる内容の発掘が重要」だと主張する。
「消費者調査では、その人の生活における困りごとや不満を聞かせてもらう必要があります。ただし、お客様は誰も『ポッキーが役立つ場面』なんて意識しながら生活していません。だからこそ、役立てる内容をどう引き出していくかが消費者調査のキーポイントなのです」(玉井氏)
商品価値の整理や消費者調査を経て、いよいよ解説は広告設計のステップに。「広告するという行為は、相手を説得すること」というのが玉井氏の考えだ。説得するためにはロジックが必要で、ロジックは「主張」「背景」「具体例」の3要素で構成されているという。