成長の鍵は組織改革と人材育成
永井氏:こうした課題と限界を認識した上で、変革を進めるには“仕組み創り”が大切です。その仕組みの根本にあるのが組織と人。テクノロジーを導入するだけでは変革は起きません。
組織改革と人材育成をいかに実現していくかが鍵ですが、そのためには、上層部からスタイルの変革に関するコミットメントを全社へと強く伝える必要があります。今までとは異なることをやっていくには多大なエネルギーが必要であり、それは全社的に取り組まなければ生まれないのです。

組織改革については、部門横断的なコア組織を作ることが重要です。部門ごとにKPIが異なることが障壁になるかもしれませんが、共通のKPIを段階ごとに設計して分断を解いていくことで、シームレスなコア組織を形成することが可能です。そうすれば、一貫性のあるマーケティング戦略を実施できるようになっていきます。
もちろん、組織改革が最も難関でしょう。ですから、リーダーやプロジェクトオーナーを経営層がサポートすることが欠かせません。たとえば、会議で出たアイデアを持ち帰って部署の責任者におうかがいを立てていては時間がかかりすぎます。その場で意思決定をして横断的に部署を動かせる権限をリーダーに持たせなければなりません。そして、組織を可視化する必要もあります。誰がどこで何をやっているかが周りから見えなければ、協力は得られにくいですからね。
変革を前に進めるなら、価値をしっかりと共有した上で、組織整備から始めることをお薦めします。企業によって文化やスタイルは異なりますが、短期集中でトライ&エラーに取り組むことが功を奏するのではないでしょうか。
人材育成については、もう少し中長期で計画します。新しく導入したツールの使い方や汎用的なスキルの習得には段階を策定し、進捗を定期的にチェックすることが有効です。
ナレッジの蓄積が今後を左右
――お話をうかがうと、コロナ禍の前後で変革を進める下地ができた企業が結果を出したのだと感じます。一方で成長の二極化が進んでいる今、既にできてしまった差を埋めることは可能でしょうか。
永井氏:どのようなゴールを設定するかによって違いますし、何をもって変革と呼ぶのかにもよりますが、ビジネスは継続していくことがなによりも大事です。長いスパンで絵を描いてみたとき、半年や1年の差はそれほど大きくありません。
いずれにしろ、現時点での競合他社との差を見るよりも、自社がどれだけビジネスを継続できるのか、変革に向き合っていけるのかを考えたほうが有益です。それができれば、他社との差はおのずと埋まっていきます。
変革に向き合うこと、変化に対応することとは、要するにナレッジがどれだけ蓄積したかです。数字的な結果、たとえば売上の成長だけがゴールではありません。失敗のナレッジの蓄積こそ、変革にどれほど取り組めたかの証しであり成長の足跡です。他社に尋ねても教えてもらえませんし、自社が取り組んだからこそ残していける重要な資産、競争優位性の源泉となるはずです。