※本記事は、2022年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』77号に掲載したものです。
業界の“負”に挑む
株式会社AViC 執行役員 広告事業本部長 瓜生 翔氏
ハウスエージェンシーを経て株式会社サイバーエージェントに入社。広告事業部門にて、インターネット広告を中心としたWebマーケティングにおけるコンサルティング業務に従事。株式会社リクルートにおいてマーケティングリーダー、プロダクトマネージャーを経て、2020年5月に株式会社AViCに入社、執行役員に就任。
本稿は、デジタルマーケティングに関わる方、特にマーケティングエージェンシー(以下、エージェンシー)で働かれている方を主な読者として書いたものです。クライアントサイドにいらっしゃる方やソリューションベンダーの方々にとっても、パートナーの内情理解につながるものになるかもしれません。
私は、サイバーエージェントで7年ほど広告・エージェンシー事業に携わった後、リクルートでマーケティングリードやプロダクトマネージャーを経て、現在株式会社AViCの執行役員・広告事業本部長を務めています。当社は社員50余名、ベテランも若手も混じったエージェンシーですが、設立4年ながら、業界の“負”に挑む形でデジタルマーケティング支援事業を展開し、健全な成長を遂げてきました。その様子をお伝えすることで、読者の皆様がご自身の仕事や業界について捉え直す機会を提供できれば幸いです。
クライアントに本質的に向き合えているか
はじめに私が“負”と言い表しているものについて説明します。エージェンシーに在籍する方々は、今、とにかく「広告を配信すること」が仕事になってはいないでしょうか。その広告は、自社の営業行為としてではなく、クライアントを勝たせるマーケティング行為として最善であると確信を持って行われているでしょうか。一つひとつのプロジェクトに十分な時間を割ききれず、それぞれの仕事がないがしろになってはいないでしょうか。「論語と算盤」、あるいは「浪漫と算盤」といった言葉があります。クライアント企業や社会に対する本質的な価値発揮と、自社の利益追求とのバランスあるいは循環は、読者の皆様が居合わせる環境において、果たして適正なものでしょうか。
売上や粗利など、財務指標・目標を基にした組織マネジメントは、どのような企業でも当たり前に行われているものですが、これには弊害もあると考えています。目標値というものは「100やるより、150やったほうがいい。150やるより、200やったほうが偉い」といったように、基本的にはストレッチを求められ続けるもの。これ自体は当然とも言えますが、1人ひとりが生産に充てられる時間は本来有限であるのに対して、際限ない目標値のストレッチは、得てして「無理」を生じさせます。1社1社のクライアントに十分に向き合えない。十分な時間を割けない。提供品質が低下し、お叱りをいただいたり、それが積み重なったりして、お取り引きの停止につながることも。「じゃあ次」と切り替えて、新しいお客様とのお取り引きに取り掛かり、また同じことが起こる……。残念なことに、少なくないエージェンシーの内部で、このようなことが日常的に起こっていると感じます。
こういった状況がまかり通る理由の一つに、広告宣伝費のデジタルシフトが相当に進行していることがあると考えています。既存顧客のチャーンがあったとしても、新規顧客との取り引き開始により、社として、事業としての売上額は伸ばせてしまう。この構造において売上だけを目標とした場合(≒売上至上主義)、品質を上げようという力学が働きにくくなります。
もちろん、それも事業経営の一つの在り方なのかもしれません。ただ、品質を置き去りにしたサービス、「配信すること」がゴールになっている広告において、クライアントは本質的に幸せにはなれません。当社ではこの構造をデジタルマーケティング業界における“負”の一つと捉え、そうではない経営を実現しようとしています。続いて、その具体的な取り組みを紹介します。