125カ国以上で医療従事者や研究者、患者に貢献
MZ:お二人の現職での業務、ミッションについて伺えますか。
二塚:PHC株式会社(以下、PHC)は、糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスの3つの事業領域で製品やサービスを提供しているPHCホールディングス株式会社の日本における事業会社です。糖尿病マネジメント事業では、主として血糖値測定システムおよび糖尿病管理ソリューションを、ヘルスケアソリューションでは、臨床検査や創薬支援の各種試験、電子カルテシステムや医事会計システムなどのITソリューションや、遺伝子などのデータ解析サービスなどを提供しています。診断・ライフサイエンス領域では、検体や試薬の保存機器、細胞培養装置をはじめとするライフサイエンス機器、病理検査用機器などを販売。日本発企業として、現在世界125カ国以上の医療従事者や研究者、患者様に貢献しております。
PHCホールディングス傘下で私はライフサイエンスの事業部門であるPHCのバイオメディカ事業部マーケティング部に所属しており、2つの役割を担っています。1つはセントラル機能として、グローバルでのマーケティング支援やイニシアティブをとること。もう1つはローカルの機能として、日本やアジア太平洋地域でのデジタルマーケティングの実行です。
社内でのOracle Eloqua(以下、Eloqua)ユーザーは、私を含めて現在4名おり、内2名は海外の方です。Eloqua活用についての私の役割は、戦略策定から実際の使用、新しいEloquaユーザーに対するレクチャーなど、ほぼ全般です。国内と海外では展開する商品やサービスが完全に同じではないので、Eloquaも別々に活用しています。
宮成:私は日本オラクルで製造業のお客様をメインとして営業担当をしています。この2年ほど、二塚様のEloqua活用支援を担当しています。弊社は近年、クラウド事業にも非常に注力しており、SaaSだけでなく、PaaS、IaaSと3層にまたがってソリューションを持っております。私はその中でもSaaSレイヤーのCX領域を担当し、企業様の顧客体験を向上させるところに重きを置いた製品を取り扱っています。
選定理由はグローバル活用と1to1コミュニケーション
MZ: PHCさんがEloqua導入時に抱いていた課題や目指していたマーケティングの形を具体的に伺えますか?
二塚:社内でWebマーケティングの早急な推進が求められ、4年前に取り組みを始めました。ノウハウの蓄積が少なさに加えて当社の事業は非常にニッチなので、基礎マーケティングやアノニマスに対するWebマーケティングと、事業貢献との結びつきが把握しづらい状況にありました。
そのため、それぞれのお客様とより適切なコミュニケーションを行い、施策内容や結果、反応を社内の営業部門へ引き継いで最終的に効果測定する必要がありました。そこで、組織間連携を推進するための社内の共通言語として、セグメントや正確なお客様情報の把握が必要と考え、1to1コミュニケーションを実現する顧客データベースやツールとして、MAの採用を検討しました。
Eloquaはグローバルでの使用に向き、1to1コミュニケーションに必要なデータやコンタクト情報の柔軟な管理が可能な点に魅力を感じ選定しました。反対にSFA画面にMA側のプロファイルの画面を埋め込んで、オンラインのアクティビティ情報を営業へデータ送信したり、システム連携したりについては重視していませんでした。しかし、当初は具体的なMAの活用イメージができておらず、導入後に活用方法は大きく変遷を遂げています。
宮成:PHC様の事業と照らし合わせながら、現状のビジネスと将来的なことを視野に入れて、しっかりとツール選定をされていますよね。海外事業を展開されていたり、事業体が複雑であったりする企業様にこそ、Eloquaは真価を発揮するツールです。
私も定量的に数字を伸ばすこと、導入後のROAなども見据えて、お客様のビジネスにも入り込み、その仕組みを使ってビジネス伸ばしていくアプローチをさせていただいております。
メール配信から自社ならではの施策へ転換
MZ:Eloquaの活用方法が変わったとのことですが、どのように変化したのでしょうか?
二塚:最初の1年半ほどはメール配信に重きを置きました。様々な購買ファネルに対するコンテンツをたくさん作成して、メールを配信とスコアリングを通してMQL(Marketing Qualified Lead:マーケティング活動によって創出したリード)の獲得を試みました。メールの反応からお客様をナーチャリングし、オンラインアクティビティをもとにインサイドセールスがコールして営業にパスする流れです。
これは非常に一般的な施策ですが、当社には不向きだとわかりました。原因は自社の商流や取引ルートなどのビジネスモデルと、お客様側の事情やマインドセットです。メール開封率などの数値は良好でしたが、MQLにつながらず、即座に事業貢献するわけではないという課題も見えてきました。
そこで、ユーザーインタビューやカスタマージャーニーの引き直しをして、個々のお客様とのコミュニケーション方法を考え直しました。
調査の結果として、弊社の商材の場合、お客様は必要な時にしかコミュニケーションをとりたくないのだとわかりました。ですから、いきなり購買意思のある方や問い合わせ希望者を獲得するのはハードルが高い。そこでMQLの手前に、ポテンシャルが高そうなお客様を理解し、把握するための指標を設けました。
「今すぐ製品が欲しい」「問い合わせをしたい」というタイミングではないものの、中長期的に買い替えの時期が把握でき、前回の購買履歴から次のタイミングが予測できるお客様と今後も関係性を維持するための取り組みを、営業部門と共に進めることにしました。
また当社のお客様、例えばラボの研究者の方でも、研究の内容や関心のあるトピックは多岐にわたります。当社のマーケティングリソースを考えると、コンテンツを大量生産してそれぞれのニーズを満たすよりも、正確なプロファイルとタイミング、チャネルを重視するほうが向いているとわかりました。
社内データを統合し、顧客のタイミングを把握
二塚:正確なプロファイルとセグメント作成には、社内のあらゆるデータの整備が必要です。そこで社内のリソースも考慮しながら、どのセグメントに対してアプローチをすると効率的か、社内のお客様情報を基幹システムと統合して、Eloquaに取り入れることにしました。過去に購買履歴のあるお客様、お問い合わせされたお客様、名刺交換されたお客様などの仔細なデータが揃うことで、より正確なプロファイリングができるようになりました。今はお客様が必要なタイミングでコミュニケーションがとれる、インバウンド的な取り組みを重視しています。
MZ:インバウンドで顧客が来るタイミングを把握するための具体的なお取り組みはどのようなものでしょうか?
二塚:お客様の買い替え検討時期をまず把握します。その情報は基幹システムや、有益なコンテンツを提供した際に実施したアンケートなどから取得します。
基幹システムであれば、例えば購買サイクル的に前回購入時からどれぐらい経っているのか、代替的に提案できる商品がないかなどを検討します。そこにアンケートなどで調査した買い替え時期のタイミングや、オンラインでのアクティビティなどを合わせて、有効にコミュニケーションできそうな時を選び、オフラインで営業からアプローチをするようにしています。
Eloquaで見えないものが見えてきた
MZ:活用方法を転換してから、現状はいかがですか?
二塚:試行錯誤の期間が長かったので、有効リード数の測定を今まさに始めているところです。商談サイクルは約3ヵ月なので、受注か否かの結果は現時点では出ていません。Eloquaを導入しCRMとシステム統合を実施してから、リードからの売上が測れるようになりました。導入当時は、そもそもリードがどれだけ売上につながったのか把握できない状態でしたので、初年度の定量的な成果はそこまで大きいものではありません。
しかし、これまで計測できていなかったものが把握できるようになりました。この後は、いかに伸長させるかですね。見積依頼を待つだけでなく、前述のようにお客様の兆しをいち早く察知し、営業から商談を取ってもらいやすくしています。
おかげさまで営業部門との連携は非常に深まり、反応のある方に営業部門から積極的にコールしてもらって商談に進んでいる商品もあります。ただ、取り扱う商材が幅広いので、営業からの1to1のアプローチが適切な商材もあれば、営業が個別アプローチをとりきれないセグメントの商材もあります。まずは1to1が可能な商材から取り組みを進めています。
宮成:私から見てPHC様の活用で非常に特長的だと感じる点は、自社に合わせたツール活用がしっかりとできていることです。実は、MAが単純なメール配信ツールで終わってしまうというお声は多いです。PHC様はPDCAを回す中で、セオリーとは異なる活用方法を見つけられています。
MZ:メール配信での結果からカスタマージャーニーの引き直しに目を移せるか否かは、今後のMA活用の明暗を分けるポイントですよね。ジャーニーの引き直しにEloquaは活躍しましたか?
二塚:カスタマージャーニーを引き直す際、各セグメントで複数人のお客様にインタビューしました。Eloquaの選定基準でもあるのですが、細かくデータにラベリングでき、把握できる点が我々には適しています。インタビューの結果、きちんと個々のデータを管理して適切なコミュニケーションがとれるようになりました。対象セグメントによりアプローチを変えられるようになったのは、Eloquaの特性が活かせたと思います。
同じ施策でも国ごとに異なる結果
MZ:導入の際にはグローバルでの展開も視野に入れていたとのことですが、グローバルでのEloqua役割や活用法をお聞かせください。
二塚:Eloquaは多言語対応していて、インストラクションも充実していますので、海外の方でも問題なく使えています。
手法としては、海外もまず基本的にはメール配信やランディングページ(以下、LP)でコンテンツをダウンロードしていただくことから始めました。海外では、外部のメディアプラットフォームが非常に活発で、研究者の方だけが集まる専門の媒体も多数あります。そちらとコラボレーションしてコンテンツを作り、ダウンロードする際にEloquaのLPに誘導し、Eloquaにデータが残った方にメールでアプローチをしていました。ただ、海外ではこの方法は結果が芳しくありませんでした。
海外の難しい点は、国ごとにまったく事情が異なることです。例えば香港とオーストラリアではうまくいくことが、インドとシンガポールではうまくいかないなど。また、獲得したリードがかなり高い確率で受注につながる国もあれば、非常に多くのリードを獲得しても、まったく受注につながらない国もあります。
最終需要に対して複数の商社やサプライヤーさんが入っている場合もあるので、問い合わせ数の増加と最終的に受注できる案件が比例しないことも多々あり、活動量の割に成果に結びつきにくいこともあります。
国の商習慣や商流を知ることで腑に落ちることもありますが、購買プロセスや選択のタイミングなど、理解できていないこともあります。現在、海外においても調査やユーザーインタビューを実施しており、結果に基づいてEloquaの活用法を考えていくところです。
他社事例はあくまで参考、自社での試行錯誤が財産に
MZ:まさに様々な施策をお試しの最中かとは思いますが、今後の展開はどのようにお考えですか?
二塚:国内では現在進行形で他システムの情報や、外部データをEloquaに移入させています。営業にとって有効になるリードや情報を送り、連携を深めていきたいですね。
中長期的には、収集できるデータをもう少し増やしていきたいです。現在はCRM側の限定された情報だけですが、活用できるデータも広げていきたいですし、そのためにはEloquaとCRMとの連携もさらに進めたいです。
海外では、見積依頼から受注までの6ヵ月間に受注率を高めるためのナーチャリングのオートキャンペーンのプログラムを組んで、日本側と販売会社とで定期的にフォローしていきます。キャンペーン側の課題を見つけていきたいですね。また、中長期的には、ユーザーインタビューを実施している国に対して、各国に合わせた1to1コミュニケーションをきちんと実施できるEloquaの活用方法を模索したいですね。販売会社の事業の支援にもつなげていければと思います。
MZ:御社や二塚さんがスピード感を持って事業を推進していけるポイントや秘訣はどんなところでしょうか。
二塚:私はあくまで実施した施策に対しての成果を確認し、課題を改善していくことを繰り返してきました。その中に答えを求めることしかしてきていません。私は元々マーケターではなく、入社してからは海外営業、販売、海外販売企画などを担当していました。Webマーケティングの経験もなかったので、セミナーや他社事例などをよく参照していました。しかし、実際のところ当社にそのまま適用できないとわかりました。
MZ:堅実に結果を積み重ねていらっしゃるのですね。社内での評価やEloquaに対する認識はどのように変わっていきましたか。
二塚:当初は「問い合わせ数が何%増えました」「売上がどれだけ伸びました」といった定量的な成果が得られるのだと思って導入しました。実際、当社内の期待値もそうでした。しかし、それだけでは自社のKPIにどうしても合わないケースがあります。そのような時に、中長期的にどうデジタルを活用し、施策に反映すれば社内で納得感を得られるか・お客様との接点も広がるのかと考えるようになりました。
MZ:宮成さんとしては今後、Eloquaに限らずオラクルとして、PHCさんにどのような価値提供ができるとお考えですか。
宮成:二塚さんのお話には非常にヒントがありました。まずEloquaだけに関して言いますと、海外展開に特化した活用支援ミーティングを実施させていただこうと思います。他社事例なども示しながら実施したいですね。また今後のステップとしては、データ活用ですね。様々な接点における顧客データの収集と活用はオラクル最大の強みです。それらを結合していかにビジネスに活用するかは、非常に得意としている領域なので、Eloquaと合わせてその領域のご支援させていただきたいですね。
MZ:これからの展開も楽しみですね。本日はありがとうございました。