あらゆる顧客接点がPlaceとなり、顧客理解の入り口に
──エンゲージメント4Pを考案された背景を教えてください。
岩井:マーケティング4Pは、ともすると企業にとって都合の良い資源や活動の組み合わせを考えがちですが、本来は顧客価値を実現するために何を組み合わせるかを考えるフレームワークです。それを前提に「デジタル社会を迎えた今、新しいマーケティングの基本としてエンゲージメントを中心に考えよう」という狙いが、エンゲージメント4Pにはあります。
そして、「顧客が企業とつながりたいと思う顧客価値とは何だろう?」をわかりやすく構造化したのが、カスタマー・バリュー・ピラミッドです。
たとえオンラインでつながっていても、顧客を理解せず、企業都合で一方的にメルマガやプッシュ通知を送っている状態では「つながっている」とは言えませんし、SNSのいいね!の数がエンゲージメントであるわけでもない。顧客から見た「つながる理由と価値」をビジネスモデルとして実現できているか、が大切なのです。
奥谷:多様な業界でコモディティ化が進み、マーケットにモノやコトを配荷すれば売れるという時代ではなくなっている今、エンゲージメントが重要であることは、おおよそのマーケターは知っているでしょう。モノからコトと言われて久しいですが、「それってどういうこと?」を可視化する意味でもこのピラミッドは有用です。
ただ、エンゲージメントは定義がとても曖昧で、世の中のデジタル化が進むにつれてようやく定量的に計測できるようになりました。オフライン、オンラインを問わず、あらゆるPlaceで顧客エンゲージメントを計測できる環境が整ったことを受けて、エンゲージメント4Pでは、これらをシンプルに表しています。さらにVer.2として、PlaceとエンゲージメントをつなぐデータシステムとCRMプログラムを加えて更新しました。
──Ver.2では、どの接点でデータを得て何に活用するべきか? がわかりやすくなっています。エンゲージメント4Pにおける、データの理想的な活用方法を教えてください。
奥谷:エンゲージメント4Pは循環型のマーケティング思考ですから、顧客を理解し、新たな提案を行っていくためにデータを持つという位置付けです。業界問わず、BtoBとBtoCも関係なく、顧客IDを持つ時代が来ており、ファーストパーティデータを持っていないというのは、ビジネスの成功の第一歩から外れていると言ってよいでしょう。顧客を理解するためのデータは、エンゲージメントを可視化するだけでなく、D2Cブランドの開発のような新規ビジネスへの可能性も秘めています。
岩井:重要なのは、あくまで顧客を基点にしたマーケティングをしている企業が、ファーストパーティデータをより活かすことができるという点です。顧客が企業とつながっている理由や顧客自体を知らずして、ただデータを集めるのは本質的ではありません。顧客が「データを提供していい」と感じる顧客価値と顧客への提案があるからこそ、ファーストパーティデータの質と量は上がっていきます。
奥谷:CRMも、顧客基点で捉え直しが必要です。顧客にとってつながりたい理由がないところへ、精度の高いCRMを組み込み、「なぜそんな情報を知ってるの?」と思われるような提案をすると、顧客は離れてしまいます。やはり、顧客が企業とつながっていることの価値を見い出している状態で、その価値を高める提案を適切なタイミングで促進することが大切です。エンゲージメント4Pでは、Promotionも販売促進ではなく、顧客とのつながりや関係性を促進する施策と捉えています。CRMとは、囲い込むのではなく、顧客にとって価値のある形で、顧客との関係性をマネジメントすること。エンゲージメント4Pでは、顧客にとってどんな意味があり、どのような価値を実現するのか?の一点で、マーケティング活動のすべてを考えています。
