組織全体で取り組む「インバウンド」
「点」ではなく「面」。企業全体で体現するインバウンド
HubSpotで具体的に実践しているインバウンドな施策については本連載の2回目以降でご紹介させていただくとして、ここではインバウンドを実現するための組織づくりについてお伝えします。
インバウンドでは、個別施策という「点」ではなく、営業活動、マーケティング活動全体や企業全体で「面」として一貫した体験を提供することが重要です。そのためには、セールス、マーケティング、サポートなど顧客と接点がある部署だけではなく、一見顧客との接点を持たないと思われる人事や総務なども含めて、企業全体の取り組みが顧客中心に設計される必要があります。一貫した顧客体験を提供するためには、組織の共通した価値観、企業文化が重要なポイントになってきます。
インバウンドにつながる組織作り
HubSpotが取り組んでいる、「インバウンドを実現する組織作り」の事例をいくつかご紹介します。
①顧客管理の一元化
CRM(顧客関係管理)ツールを使って、顧客の情報を全社で一元管理しています。たとえば、営業は顧客と初めて商談をする際に、CRMの顧客データから、その顧客がこれまでにダウンロードしたe-bookがどんなもので、いつデモの申し込みをしたかなどの背景を把握した上で会話を始められます。顧客が求めている情報を、いつどの接点においても、適切なタイミングで提供できることはインバウンドの起点であり、顧客からの信頼に繋がります。
②適切なKPIの設定
HubSpotのKPIは、各部署が前後の工程にも責任を持つような仕組みをとっています。営業は営業、マーケティングはマーケティング、それぞれが別々のKPIを持つのではなく、一部のKPIが部署を跨いだ共通のKPIとして設定され、各部署が連携して共に達成に向かっていきます。これにより、1つの部門が自分たちの目標達成のために顧客側の体験を犠牲にすることを避けられます。目標設定においても点ではなく線、部分最適ではなく全体最適の視点を持っておくことが重要です。
③顧客視点を基盤とした全体最適なビジネス運営
各部署のリーダーが集まる週次のミーティングでは各チームのKPIの達成度を確認しますが、ただ確認するだけではありません。たとえば既存顧客に対する売上が伸び悩んでいる時、それは営業だけの課題ではないと捉え、それぞれの部署がその課題に対して「顧客にどのような価値提供できるか?」「既存のプロセスをどのように変更するべきなのか?」「その結果として、どの程度の売上向上が見込まれるのか?」などの議論をしています。常に各部署が抱える課題を、組織として解決しようとしているのです。
HubSpotには、上記のような取り組みの基盤に、「カルチャーコード」という企業全体の行動指針があります。「こういうお客様にはこう対応する」とすべてを細かくルール化するのは無理があります。「コード」には規範という意味がありますが、現場で判断するときの指針となるカルチャーコードを明文化することで、企業全体がインバウンドの思想を実現できるようになるのです。HubSpotのカルチャーコードは公式サイトで公開していますが、一部を紹介しましょう。
- 当事者意識を持ち、知識の共有をためらわない
- ただ顧客に満足してもらうだけでなく顧客に成功をつかんでもらいたい
「顧客にとって最適なことをしよう」と明記することで、HubSpotで働く誰もが原点に立ち戻れます。日々の判断に迷ったときは、常に「これは顧客のためになっているのか」を考え、議論しています。このようにカルチャーコードは会社にとってのNorth Star(北極星)として、進むべき正しい方角を教えてくれる役割を担っています。

オンライン環境でお互いが離れていても、部署が違っていても、カルチャーコードが共通見解となり、一貫したインバウンドの実践が可能になります。顧客体験と企業文化は切っても切り離せないもの。組織内で共通した価値観を持つことは一貫性のある体験と企業の信頼につながります。