そのDMや広告は「顧客のため」になっているか
「大量のDMをひたすら送る。会ったこともない人に営業電話をかけ続ける。これって本当に意味があるのだろうか?」
営業やマーケティングの現場で、こう思ったことはありませんか? 顧客のニーズよりも、企業の売り上げや数字を優先してしまうことは、顧客にとっては「迷惑」なアクションになるリスクがあります。このようなアクションをHubSpotでは「インバウンド」の対極「アウトバウンド」と呼んでいます。顧客に喜ばれない方法で顧客に接しているとき、もやもやしたり、やりがいを感じられない経験をしたビジネスパーソンも多いかもしれません。実は私も、過去のマーケターとしての経験の中で同じことを思ったことが何度もありました。
顧客と企業の関係性にモヤモヤを感じていた私がインバウンドの思想に出会ったのは、Google時代。当時実施した「鍵のついた箱」(Google AdWordsの利用促進を目的に、見込み顧客に鍵つきの箱をDMとして送付した施策)が全日本DM大賞を受賞しました。鍵を開けるためにGoogle検索を体験してもらうと言う仕掛けもさることながら、構想の時点からペルソナを描き、受け手に興味を持ってもらうこと、アクションをとってもらうこと、さらにアクションをとった顧客に営業メンバーがどうフォローするのか、受け手との関係性を築くことを最重要視して設計したことが評価され、賞をいただく結果につながったのだと思っています。今思うと、顧客視点であるインバウンド思想をまさに実践していた施策だったわけです。顧客視点の重要性に気づき、「もやもや」が晴れるきっかけにもなりました。
冒頭でインバウンドとはマーケティングの手法ではなく「思想」であるとお伝えしました。上述したマーケティングの施策に限らず、実はインバウンドを感じる瞬間は日常にも多くあります。たとえば、飛行機に乗って「右手に富士山がご覧になれます」とアナウンスが流れるのを聞いたことがありませんか。アナウンスをすることで、航空券の売上が伸びるわけではありません。しかし顧客にとっては、美しい富士山を見て息を呑み、いつもの空路が忘れられない体験に変わるきっかけとなる。エアラインに対する好感度は上がることでしょう。このような、「相手のニーズを捉えて行ったこと」はまさにインバウンドな取り組みであると言えます。
信頼される企業が選ばれる時代
ではなぜ今、インバウンドが必要なのでしょうか。
HubSpotが毎年実施している「日本の営業に関する意識・実態調査」の2022年度版では、購買意思決定において最も重要な要素は「品質」や「価格」を超えて「信頼できる企業であること」という結果がでました。さらに情報が溢れる今、顧客は多くの情報を持つようになっており、企業が出す情報を鵜呑みにせず、吟味して判断しています。

このような世の中において、信頼できる企業となりうるには、単に目先の売上をあげることだけを考えるのではなく、顧客を理解し、企業としての言動が一致していることが重要でしょう。つまり、顧客と企業の出会いから、購入、サポートまでの一貫した顧客体験を提供し、エンゲージメントを高めていくことが重要です。私たちは、インバウンドがその軸となりうると考えています。