売上に寄与するさまざまな要素を1枚の地図に
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は『売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント』(日経BP)の内容や執筆の背景に触れながら、お話をうかがいます。マーケティングに関わる要素を洗い出し構造化してマッピングしたのが本書の特徴かと思いますが、このような形で執筆された理由を教えてください。
池田:売上をめぐる“わかりにくさ”を解消したいと考えたのがきっかけの一つです。本来、売上が生まれるまでには長い過程があり、影響を与える要因にもいろいろなものがあります。リサーチや商品開発、売り場を確保するチャネル戦略を含めたマーケティング全般、広告、PRなど各部署でさまざまな施策を講じていますし、自社ではコントロールできない天気や競合他社の影響を受けることもあります。売上に影響する要素にはどのようなものがあるのか、それぞれの要素がどう関連し合っているのかを俯瞰するのは意外と難しいのです。
全体像が把握できていないために起こる問題としては、自分の担当領域や担当施策の影響を過大に評価したり、逆にそれが効かないときは打つ手がないと判断してしまったりすることがあります。売れた理由/売れなかった理由を考えようとしても、的外れなものになってしまいがちです。
サッカーで例えると、誰がパスをつないでくれたのか、そもそも誰がこの試合をセッティングしたのか、という全体像に目を向けないまま、シュートの角度についてあれこれ考えているような状況です。特に広告やマーケティングの領域は過程全体で言うと売上に近い部分に位置しているため、一層、その領域だけを見て考えてしまう傾向があるように見えます。
MZ:確かに、それぞれの領域が専門特化していくにつれ、全体がどのようになっているのか、それらがどう関連し合っているのかを探る視点は持ちにくくなっていると感じます。
池田:そうですね。私はキャリアの前半では商品のコンセプト作りやリサーチ、売り場開発などを担当し、その後はデジタル領域も含めたプロモーションやPRに携わってきました。幅広い領域を見てきたからこそ、売上という最終ゴールにつながる地図を、俯瞰しながら整理し、示すことができるかもしれないと考えました。この本を読まれた方が、全体における自分の仕事の位置づけを理解して、注力すべきことを判断したり、部署を越えた連携や情報交換を行ってくれたら嬉しいですね。
「効果測定の過信」に潜む落とし穴
MZ:本書では売上に影響を与える主な要因を一つずつ説明した後、効果測定に関する問題にも触れています。特に印象的だったのが、「マーケティング効果の正確な測定は“不可能”である」というメッセージでした。こちらについてお話しいただけますか?
池田:たとえば、街中にある製品の大きな広告を出したとして、その効果で一体何個分の売上が増加したのかと聞かれても、今のところ、誰も正確な答えを出せません。オフラインの広告はそれ単体の効果でいくつ販売個数を増やすことができたのか把握することは不可能に近いですし、売上に寄与する要因は広告以外にも多く存在するからです。
その限界を踏まえず、すべてを測定可能であると考えてしまうと、測定可能な要素以外を見ようとしなくなっていきます。測定できる範囲の中でいかにして効果を最大化していくか、だけを考えるようになってしまうのです。
ふたたびサッカーの例を挙げると、「11人でプレーしているのに、フォワードの効果測定と改善だけをやっている」ような状況になってしまいます。実際は他の10人の影響、対戦相手のレベル、天候など、試合の状況を変える要素はもっとあるはずです。