ターゲットに刺さる施策のヒントは住民の潜在ニーズにある
高橋:市長ご自身がマーケターだったのですね。それにしても「流山グリーンチェーン戦略」をはじめ、これまで打ち出されてきた数々の施策は、いずれも流山市がターゲットとしている「30代共働き子育て世帯」のニーズを見事に満たしていると感じます。前例のない中、ドンピシャな企画はどのように立てていらっしゃるのでしょうか?

高橋飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。
ナイルにて、累計1,500以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
河尻:プランニングは専門の企業などに委託しているのかとよく聞かれますが、すべて自分たちで企画しています。イベント1つとっても、コンセプトやテーマ、ターゲット、開催方法など考えることは数多くありますが、大切にしているのは、普段から行っている町の方との対話です。
リアルな声を通してアイデアが浮かんできたり、異なる分野の方に話を聞くことでインスピレーションを受けたりするということもありますが、何よりこの対話によって、大きな困り事として顕在化する前に潜在的なニーズを拾えます。そのため、町の方の声を聞くという点にはこだわっていますね。
市民のタイプを4つに分け、本音を聞く
高橋:私たちもクライアントの商品やサービスのコンサルをした際など、1人よがりにならないよう、消費者にその商品やサービスを買った理由や背景的なニーズについて、時には人生レベルにまで掘り下げてインタビューを行い、消費者のインサイトを把握する機会を意識的に設けています。
流山市でも同じようなことをされていたということで、すべての企画がターゲットのニーズを満たしているように感じられる点にも納得です。ただ、町を変えるとなると、誰に何を聞くのか、また対話はどのようにセッティングされているのでしょうか?
河尻:来庁するのは手続きなど用事があって来る方ばかりで、役所で待っているだけでは会話をする機会がないんですね。ですから、日頃から意図的に接点を持つようにしています。たとえばプライベートで民間の講座などにお邪魔して、参加してくださっている方にこちらから声をかけられるように広く顔見知りになっておくのです。また、SNS上で市民の方のつぶやきもチェックするなどしています。そうしてお話を聞ける顔見知りをタイプ別に4つのセグメントに分け、聞きたい内容によってお声がけする方や聞き方を決めています。
高橋:話を伺う機会を意図的に創出されているのですね。4つのタイプとは、具体的にどのように細分化しているのですか?
河尻:たとえばイベント企画に関してだと、積極的に行動してくださるタイプ、環境次第で協力してくれそうなタイプ、企画には携わらず参加だけしたいタイプ、参加にも消極的なタイプに分けられます。どのような困り事があるか知りたい、改善案を聞きたいなど、必要な情報に合わせて個別に接触を図り、話を聞いたり、一緒にやりませんかとお誘いしたり、ご意見をいただいたりしています。
当時私自身も小さな子を持つ母親で、流山市が変わろうとする勢いに惚れて他から移住してきたので、気持ちの上で寄り添えるところがあるのではないかと思っています。
マーケあり!ポイント
・30代子育て世帯に刺さる施策を打ち続けられるのは、住民と広く顔見知りになり、本音を吸い上げる機会を作っているから。細やかに住民のニーズを拾うことで、効果的な施策を打つことに成功しています。
・住民の方々との対話の方法にも、対話の対象者を4タイプに整理して相手に合わせて対話を行ったり、人によってはイベントで直接声をかけたり、SNSから接点を持ったりと、本音を知るための工夫が凝らされています。相手が話しやすいことはインタビューの前提条件であり、有益な声をどうすれば得られるかという試行錯誤が感じられます。