インナーマーケティングがもたらした好影響とは?
高橋:元々はSNSをチェックしていく中でインナーマーケティングの重要性を見つけたわけですが、既存住民の維持に力を入れることで住民の満足度が上がり、今度は良い意味でSNSや口コミなどで市外に広がる。それが結果的に住民誘致につながるといった効果もあるのではないでしょうか?

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。
ナイルにて、累計1,500以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
河尻:ありますね。ファンになってくれた市民の方は流山市内で起業して町を活性化させてくれたり、市外に住む友人に良さをアピールして移住につなげてくれたりするんです。知人の紹介は信頼度が高いから、私たちのPRよりも効果的です(笑)。
また、そういった方たちはどんどん素敵になって活躍されるので、活動がメディアに取り上げられたりもして、私たちは何もしていないのに流山市の知名度が上がっていくんですよ。流山市の名をタイトルに入れた本を書いてくれた方もいて、それが全国の書店に並んで多くの方の目に触れるなど、本当にありがたい限りです。
自由に会話できる場が社会課題を解決する
高橋:インナーマーケティングは企業の採用でも重要で、いくら優秀な人材を採用したいと考えていても、今働いている人がその会社で働くことに充足感や成長を感じられていないと、簡単に求職者もそれを見抜いてしまうんです。
ナイルでは挑戦者の背中を押すカルチャーを重視しているので、異動希望を100%叶える制度や起業するメンバーに必ず出資コミットをする制度など、それを体現する施策を社内向けに行っています。ちなみに、流山市がこれまで行ってきたインナーマーケティングの中で、特に良い成果が得られた活動はなんですか?
河尻:イベントを行う際、やりたいことを自由にしゃべれる場というのを定期的に設けているのですが、もしかしたらそれかもしれません。
たとえば、子育て中の女性は自分の夢は口にしちゃいけないと思っている方がまだまだ多いのですが、その場では発言を促す雰囲気があり、恐る恐る口に出してみると、周りの方から「いいじゃん!」「やってみたら?」といった反応が返ってきて、これまで押し込めていたものが解放される瞬間があるんです。
すると、やりたいことがどんどん表に出てきて、やがて新しいプロジェクトが立ち上がったり、町の方主催の活動につながったりすることも多くなります。私たちはただ自由にしゃべれる場を作っているだけで、あとはすべて町の方が主体的に進めてくれるのですが、実はこれは少子化対策の要素の1つではないかという仮説も持っています。
高橋:会話をする場が少子化対策につながるのですか?
河尻:はい、前提として子供を持つ、持たないというのは様々な理由があり、何が良いということはありませんが、子供を望む場合は親同士の会話ができるコミュニティの存在は大きいと思います。保育園を増やすだけでは当然、少子化を解決できるものではありません。子育て環境の充実があった上で、子供との生活を具体的にイメージできたり、相談する人がいたりすることが重要なのです。子供が2人以上欲しいと希望していながら踏み切れないでいる方が、2人以上子供がいる親との会話で、不安が薄まって2人目を考えてもいいのかなと考えられるきっかけをもらえれば、何か変わりそうな気がしませんか?
高橋:なるほど! とてもわかる気がします。人間は理性だけで生きているわけではないので、保育園に入れるとか、補助金があるといった環境を作るだけでは、なかなか人生を大きく変える決断までは踏み切れないですよね。重要なのは市政と住民の対話、住民同士の対話。すごく私にも刺さりました。本日はありがとうございました。
マーケあり!ポイント
・住民がやりたいことを叶えられる町にできれば、住民が町をさらにPRしてくれるようになるという仮説のもと、マーケティング課では町で住民が自分のやりたいことに挑戦できる支援を行っています。結果として、住民の方が流山市の名をタイトルに入れた本を出してくれるなど、新たな住民を増やす観点でもポジティブな効果を得られました。
・少子化という課題には保育園新設だけでは足りず、親同士の会話できっかけを作ること、という意見は私にとっても非常に参考になりました。人の感情は制度や施設などの枠組みだけでは変えることが難しいことが多いように思います。人間関係というソフトな観点からも子育て環境を整備する流山市だからこそ、結果的に子供の数も増えているのかもしれません。