質的比較分析(QCA)の登場
質的比較分析は、カリフォルニア大学アーバイン校の社会学者チャールズ・C・レイガン教授らによって開発された技法です。この技法に対応したアプリは、無料で入手可能です。
無料だということはさておき、質的比較分析の長所といえば、なんといっても、前項で述べたような、複雑な因果的関係を分析できるという点です。
この長所をフィーチャーして、日本で初めてマーケティングの質的比較分析に関する学術論文の特集号を組んだのが、『マーケティングジャーナル』の最新号(Vol.42, No.1)です。
この特集号に寄稿いただいた5組の学者たちによる論説を、以下、紹介していきましょう。
カスタマーレビューがブランド力の高い製品の売上に及ぼす影響
近藤浩之先生の論文「カスタマーレビューがブランド力の高い製品の売上に及ぼす影響」(PDF)は、昨今関心が集まるオンラインカスタマーレビューの有効性に議論の焦点を合わせています。これまでの研究は、ブランド力が強ければ、ポジティブレビューは不要、との定説を展開してきました。それに対して、近藤先生は、質的比較分析を駆使して、定説が成り立つのは新製品導入時期だけであり、その後はたとえパワーブランドであっても、ポジティブレビューがあってはじめて売れ続ける、と主張されました。
マーケティングミックスの多様性
久保知一先生の論文「マーケティング・ミックスの多様性」(PDF)は、うってかわって古典的なトピックであるマーケティングミックスに焦点を合わせ、そこに新風を吹き込んでいます。マーケティングミックスという概念は、マーケティングの実務家、研究者なら誰でも知っている概念でありながら、各種戦略をいかにミックスするのが最適であるかについての論説はほとんど見かけません。
そのような現状の中で、久保先生は、質的比較分析を駆使して、ターゲット顧客(価格弾力性の高低)、製品分類(買回品/最寄品)、自社の市場地位(獲得シェアの大小)に応じた、「製品」・「価格」・「チャネル」・「プロモーション」の最適な組み合わせ、12種類を識別されました。