グループ横断のCDP構築・活用
——データドリブンな営業の実現に向けて構築された、統合顧客データ基盤「DUKE(図表1)」についても詳しく聞かせてください。
DUKEには、グループ各社が所有するファーストパーティデータのほか、外部から購入したサードパーティデータを統合しています。これが全社横断的に使えるようになっており、各社のCRMに入っているような商談情報のほか、名刺情報やそれに紐付くプリファレンスデータ、MAに入っているようなアクティビティデータも統合を進めているところです。
——自社でデータ基盤を構築するか、外部ツールを採用するかは企業によって考えが分かれるところです。DUKEでは「Treasure Data CDP」を活用されていますが、外部ツールの導入を選択された理由は?
一つは、このプロジェクトへの期待値が未知数だったことです。可能性は感じていたものの、会社としてここに100%の力を注いでいいものかまだわからなかった。当時のケイパビリティを鑑みると、自前でゼロから作るのは重すぎるという状況でした。
2つ目は、「営業からの要望には、できるだけNOとは言いたくなかった」ということです。我々の取り組みには各グループ会社への強制力はなく、「この先こうしていったほうがいいのではないか?」という提案ベースにあるものです。ですので、各グループ会社に対しては、協力をお願いする形になります。そんな中、たとえば「このデータを共有することで、こんな施策もできますか?」と聞かれたとき、自社で作ったCDPだったら「それはできないんです……」と言わざるを得ないかもしれません。そうはなりたくなかったので、多様な機能が搭載されている外部ツールを使うほうがよいと判断しました。
——DUKEの具体的な活用についても教えてください。たとえば、Aというサービスに登録したユーザーに対して、Bというサービスから案内が来ると「こんなサービスに登録した覚えはない」などの不信感につながりかねません。メールの作り方、出し方が難しそうですが、どうされているのですか?
「愛される」が我々のテーマですので、「ユーザーが受け取って嫌な気持ちがしないこと」は非常に大事にしています。
基本的に、各グループ会社が持つ顧客のリード情報を活用して顧客に提案を行えるのは、パーソルホールディングス(本社)のみです。我々チームのインサイドセールスがアポまでつなげ、それを各グループ会社にお渡しするという流れですね。
具体的には、名刺交換をしてDUKEに新しく登録されたユーザーには、まずご挨拶のメールを配信します。この時点で配信拒否を希望される方は、メールの配信を停止いただくことが可能です。その後、ユーザーの課題感を知るために、メールでアンケートをお送りしています。アンケートの回答から考えられる課題傾向に、業種業界、職種、役職などの情報を掛け合わせて機械学習で分析し、ユーザーの持つ課題を推測する、といった具合です。課題推測の精度は7〜8割ですが、さらにインサイドセールスが類推しながら情報を集めた上でコンタクトを取ります。その結果、アポイントをいただければありがたいですし、いただけない場合はフィードバックをDUKEに返して、機械学習を回していくという形です。
プロジェクト推進に不可欠だった、地道な説明行脚
——自社内のマーケティングと営業間の壁で悩まれている企業は多いですが、各グループ会社に協力を仰ぐとなると、本当に大変なのではないかと思います。どのように乗り越えられているのでしょうか?
一社一社ていねいに話をするしかないですね。すべてのグループ会社が最初から協力的かというと、やはりそんなことはありません。みなさんの協力と理解を得るために、日本国内、北から南まで行脚し、「こんなアポイントをお渡しできるようになるので、データを共有してもらえませんか?」などとお願いして回りました。私には「法人マーケティング推進室のプロジェクトマネージャー」という肩書きこそありますが、実際やっていることの8割は、内部での調整ごとだったりします。
——協力してくれるグループ会社が増え、活用事例が説明できるようになってくると、他のグループ会社からも協力を得やすくなるなど、変化もあったのでしょうか?
ある程度はありますが、それにも限界があると感じています。たとえば、「その会社ではうまくいったけど」「うちはうちで事情が違うから」などと思ったり、言いたくなったりする状況は事実としてあるので、事例の限界も実感しています。ですので、各所に説明するときの「型」を作るのは諦めました。一つひとつ、コミュニケーションの在り方や、お伝えする情報の粒度を変えて話をするようにしています。
——DUKEの活用により、成果はどのくらい挙がっていますか?
売上は、2020年と2021年の比較で6倍に上がりました。インサイドセールスから出すアポイントの数は前年比で173%、そこからの成約率も前年比155%となっています。アポイントの数だけでなく、品質を磨き込むことができたゆえの数字だと、手応えを感じています。
正直、アポイントの数を増やすだけなら、データの量そのものを増やせばいいので、そこまで難しくないと思います。ですが、成約率1.5倍というのは、各グループ企業の協力があったからこそ成し得たこと。これは1つの成果ポイントだと思います。
——その成功の要因はなんなのでしょうか?
お渡ししたアポイントの品質や、実際に商談をした結果がどうだったか、今後どのようなアポイントがあると嬉しいかなどのヒアリングを徹底して行っていることが寄与しているのかもしれません。オンラインや電話ではなく、直接聞きに行くことで、よりリアルなフィードバックを得ることができていますし、何より信頼関係の醸成につながっていると思っています。
テクノロジーの活用による業務効率化、生産性の向上という話とは、一見相反することかもしれませんが、やはりこういった草の根の活動でしか得られない信頼はあると思います。デジタルとアナログのどちらにも力を入れないと、成果は出せないということをとても実感した1年でした。
