「Instagramがきっかけで買う」を紐解く
では、気になるものや欲しいものと出会った後はどのように行動するのか。何かもの(特定のブランド・商品の場合もあるが、「リップ」「冬物アウター」などカテゴリであることが多い印象である)が気になったとき、まず「寝かせる」「気に留める」という段階があった。
気になったものすべてに対し「買うべきか」「他にいいものがないか」など能動的に検討をしているわけではなく、ただ気に留めてまた情報の海に泳ぎだすこともあれば、気になる投稿を保存・スクリーンショット・メモなどに記録しておくこともある。そして、この一回気になったことに関連する「何か」が別のタイミングで目に入って刺激となり、また気になる。これを繰り返して、いよいよ欲しい気持ちが高まっていく。
刺激とはたとえば、「発見」画面でまた同じような投稿が出てくる、関連するInstagram広告を目にする、ふとスクリーンショット保存画面を見直す、店頭で見かけるなどが挙げられた。実際、買い物に同行していると、数時間で約15アイテムに対して「あ、これ気になってたんだ」と商品への関心を“思い出す”様子が見られた。
この一旦寝かせる行動の背景には、自分がそれを本当に欲しいと思っているのか、買った後も好きでい続けられるか、確信が持てずに時間をおいて判断しようとしている気持ちがある。日が経ってもまだ覚えていて欲しい気持ちが萎えなければ、それによって「自分はこれが本当に欲しいんだな」と判断できる。
裏を返せば、気になる・欲しいと思うものが高頻度で(極端に言えばInstagramを開くたびに)追加更新される環境の中で、思い出す刺激がないものは、せっかく寝かせるリストに入っても消えていく。
そして、「本当に欲しいようだ」認定がなされてやっと本格的な検討が始まる。Instagramでは、楽しんだり知識を得たりする「情報遊泳」をしていると先述したが、検討が始まると、検索バーを使って目当ての情報を得ようとしたり、アイテムに注目して琴線に触れるものがないか候補を探していったりと、文字通りの「情報収集」を行う。
服であれば見た目が好みのものを探すが、複数の商品が投稿者によって評価されている「まとめ系」の投稿を何個も見て、あちこちの投稿で良いとされていたものについて「やっぱりこれがいいんだ」と候補を絞ることもある。たとえばリップを買うケースでは、「おすすめリップ10選」や「マスクに付かないリップランキング」などを写真とテキストでまとめた投稿を参考にしていた。
さらに、Instagramを飛び出して検討は続く。特筆したいのが、彼らが自分の買い物について「Instagramで見て気になって買った」と捉えていても、紐解いていくと一つのプラットフォームや一つの情報源(たとえばお気に入りのインフルエンサーの投稿)などで完結していることはほとんどないことだ。図表2に示したような要素が組み合わさって「買いたいゲージ」が上昇していく。

また、要素の組み合わせと、どんな要素がどれくらい「買いたいゲージ」を上昇させられるかは買いたいものの特徴によって異なる可能性も図表3の通り示唆された。

マーケティングへの示唆
これらの結果から、「これさえ押さえておけば効果的」といったアプローチ方法はないのではないかと考えられる。「Instagramで見て気になって買う」と聞いても、たとえば「Instagramと言えばインフルエンサー。インフルエンサーに紹介してもらえばいいのか」と解釈しアクションプランを定めるのは少し心もとないかもしれないのだ。
これが消費財や関与度が低い商品などの場合、また違った消費行動が出てきそうではある。ただいずれにせよ、彼らにまつわる言葉を解釈する前に、実際の行動を彼らの目線で見せてもらい素直に受け止めることは、Z世代を理解し関係を築いていく方策を考える上で大いに役に立ちそうである。