「消費価値の差異」によって「広告評価」はどれくらい変わるか?
検証は大きく2つのステップで構成しています。最初のステップは、普段の生活で商品やサービスを選ぶときに、11の視点をどのくらい認識(=意識)するのか、アンケート調査を行い、消費者一人ひとりで異なる価値の受け取り方の度合いを測ります。言い換えれば、消費者一人ひとりの11の消費価値観を明らかにするステップです。次に、それぞれのパーセプションを誘発させる広告クリエイティブを提示し、その評価を確認しています。
今回は、「シンガポール旅行ツアー」をテーマに実施した調査結果の一部を取り上げます。内容はシンガポール旅行ツアーを「経済的価値」「快楽的価値」「優越的価値」の3つの消費価値を起点に、それぞれの切り口から3種類の広告表現を試みています(図表2)。

消費価値と広告評価に関する調査より(調査概要は記事末尾に記載)
そして、それぞれの訴求軸に対応する消費価値観が、高いグループと低いグループで広告表現に対する反応の違いを確認しました。
消費価値に合わせた広告表現は有用性がある
調査結果を分析すると、各訴求軸に対応する消費価値観が高いグループは、低いグループと比較して、「この広告は魅力的である」「この広告は自分向けに感じる」「この商品を知りたくなった」と回答する割合が高いことがわかります(図表3)。

消費価値と広告評価に関する調査より(調査概要は記事末尾に記載)
これは、消費者が認識する価値に合わせた広告表現により、商品やサービスの受容性が高まることを示唆しています。今回は割愛しますが、他のテーマ(消費財、耐久財)でも同様の検証を行っています。その結果においても、広告表現に対応する消費価値観の高いグループは、低いグループと比較すると、1.5~3倍高く、ポジティブな回答する傾向が表れています。つまり、消費者が認識する価値を起点に商品やサービスを訴求することで、興味関心を高めることができます。
今回の分析では、それぞれの広告表現に対して、対応する消費価値観が高いグループと低いグループに分けて、断片的に分析しています。消費者の中には、「経済的価値」「快楽的価値」「優越的価値」の3つの側面すべてに価値を認識する人もいれば、この中の一つだけ、あるいはどれにも価値を感じない人もいます。誰もが11の価値基準=バロメーターを持っていますが、文脈によってその程度に違いがあるということです。消費者一人ひとりで価値の受け取り方が異なるからこそ、商品やサービスのパーセプションを多様化することで、より多くの人に受け入れてもらいやすくなります。
パーセプションの多様化は「一貫性のあるブランド」から
しかし、パーセプションの多様化を急ぎ、強引に広告メッセージを増やすのは得策ではありません。複数の広告メッセージが相反するイメージを持つ場合、消費者の混乱を招き、離反に繋がる恐れがあります。また、商品やサービスの特性によっては、11の消費価値すべての側面から価値訴求することが困難な場合もあるでしょう。では、どのように消費者が受け取る価値を多様化すればよいのでしょうか。ブランド論の視点に立ち、パーセプションを多様化する際のマーケティングの在り方を考えてみたいと思います。
ブランド論の大家、D.A.アーカーによれば、強いブランドの大半はそのブランド・メッセージに「一貫性」があります。ポジショニングは、市場に定着するまでに時間が掛かるため、長い時間軸で一貫性のあるイメージで浸透したブランドは、強いブランドを構築できる可能性があると主張しています。このような視点を鑑みると、まずは特定の価値に特化して、独自のブランドポジションを確立することが必要と言えます。