次の世代と次の時代を描けるブランドを
MarkeZine:MZ世代向けのブランドが、気を抜くとファッショナブルなもので行き止まりになってしまいがちな理由が見えてきました。それでは、今日の話を踏まえると、MZ世代に向けて、本質的に価値のあるブランドはどのように作っていくとよいのでしょうか?
藤平:ここまでの話をまとめると、まず、世代/年代/時代の3つの視点を混同しないこと。次に、どこかで聞いた「エモい」のようなビッグワードに逃げないこと。「MZ世代」と乱暴にひとくくりにしないこと。これをやってしまうと、“いかにも”なものか、“浅い”ものにたどり着いてしまう可能性があります。
蔵敷:そうですね。「クライアントのメッセージを世の中に翻訳していく」というのは、コミュニケーションの作業においては常にやることですが、その翻訳の解像度と視点が特に重要なのがMZ世代、という認識です。かつ、翻訳するということを一歩超えて、何かしら「当事者でいる」ようにしないと、表面化したトレンドの理解だけにとどまってしまうのかなと考えました。れなさんがクライアントワークで意識されていることはありますか?
齊藤:クライアントワークの場合、「そもそも何に課題を抱いているのか?」はしっかり聞きますが、私はクライアントの話を聞き過ぎない、感情移入しすぎないことを意識しています。クライアント側から世の中を見るのではなく、MZ世代側から世の中とクライアントの目線を合わせていくような感覚です。
藤平:比較的時間軸が短く、すごいスピードで移り変わる「トレンド」と、その世代が普遍的に持つ「価値観・ライフスタイル」があって、常にMZ世代側に立ちながら「価値観・ライフスタイル」まで追い求めることを自分に課す必要がある。れなさんの仕事がきちんとブランドに還元されて本質的なのは、トレンドでとどまっていないからだと思います。
バズらせる仕掛け人、天才クリエイターのように思われがちだけど、すごく本質的な思考法でものを作っていることが、この対談で伝わったんじゃないですか(笑)。

齊藤:ギャグコンテンツしか作れないと思われてるけど(笑)、松屋も今の時代、MZ世代に合ったリブランディングを一貫して設計させてもらっているので。決して、バズだけを狙っているわけではないんです。
蔵敷:MZ世代という枕詞がついた瞬間に、コンテンツや広告のHow to Deliver(どのように描くか/伝えるか)の議論に偏ってしまいがち、というのも今回の学びでした。本来は、What to Offer(何を届けるか)から考え始めるべきなのに。もちろん必要あればギャグコンテンツというHowでいいけれど、その手前のWhatにチームで自信が持てるか? は、めちゃくちゃ大事なポイントですね。
MarkeZine:では、最後にみなさんの展望をお聞かせいただけますか?
齊藤:私たちのプロジェクトは、実は日本の、特に地方にある中小企業とご一緒したいと考えているものです。地方を盛り上げる手段には「行きたくなる観光スポット」だけではなく、「欲しくなるブランド」もありますよね。大きなブランドはすでにMZ世代を中心に据えたリブランディングに着手していますが、地方のブランドだとまだスタートしていないことが多い。地方の多様で個性的な資源に、MZ世代のライフスタイルや価値観を掛け算して、アップデートしていきたいと考えています。

藤平:今日話をしていて思ったのですが、「MZ世代」というマーケティングのトレンドに惑わされすぎず、背伸びせず、誠実に仕事をするということなのかな、と。たとえば、化粧品を担当するようになったら、ぼくもスキンケアやメイクをしてみるわけで、そういう身体化を当たり前にする、というか。たしかに、Z世代向けのアプリは若すぎて気恥ずかしいのですが(笑)、やってみてわかることがあるはずです。
これまで培っていた「(ストイックに)広告的に考える」ということは、MZ世代に向けたブランド(事業やサービス)開発においても強い武器になると思っています。私たちの知見を掛け算し、共鳴しながら、いろいろなクライアントと新しいアイデアを生み出していければと思っています。