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“いかにも”なMZ世代向けリブランドの危うさ 流行で消費されずに愛される、本質的なブランドの作り方


中長期的な視点で見る、松屋のリブランディング

MarkeZine:MZ世代向けのリブランディングの事例として、grass.Incの手掛ける松屋のプロジェクトがあります。松屋の事例は、トレンドを掴んだSNSプロモーションで話題になったイメージがありますが、中長期的なビジネスデザインの観点ではどのように設計されているのでしょうか?

齊藤:松屋のリブランディングは、3つのフェーズに分けてプランニングしています。松屋さんが当初抱えていたのは、「松屋の食卓がおじさんのものになっている」という課題です。そこで、フェーズ1では「MZ世代に松屋を好きになってもらう」ことを目指し、SNSコミュニケーションを行ってきました。Instagramは「松屋は私のライフスタイルには関係ない」と思っているような女性をターゲットに、「イケてるな!」と思ってもらえるような見せ方をしています。

 フェーズ1で行ったSNS施策は色々なメディアで取り上げていただき、Instagramでもある程度地位を確立できたと思っています。

松屋のリブランディングビジョン
松屋のリブランディングビジョン

齊藤:実際に、施策の成果は売上にもつながっています。松屋もコロナ禍でUber Eatsからの売上が増加したのですが、Uber Eats利用者の内訳を見ると、女性利用者が上がっていたんです。そこで「店舗の作りを変えれば、MZ世代も店舗を利用してくれるのでは?」と考え、現在フェーズ2では「MZ世代向けのMATSUYA店舗」を企画し、収益化につなげていこうとしています。

 最終的には「みんなの食卓でありたい。」という松屋のパーパスの実現に向けて、SNS上でのコミュニケーションをグローバルに広げていきたいと思っています。

MarkeZine:中長期でMZ世代からの収益化を設計しているのですね。

藤平:松屋のInstagram(@matsuya_foods)は、どうやって企画を考えてプランニングしているんですか?

齊藤:やっぱり、こわいくらいInstagramを見ていて。その中で、日本にまだ来ていない海外のトレンドを持ってきて、「松屋イケてるな」を狙うのが企画軸の1つとしてあります。この時、徹底しているのは、旬を逃さないことです。海外トレンドに関して、数年前は半年くらいかけて企画とコンテンツを準備しても間に合っていましたが、トレンドの消費もどんどん早くなってきている印象がありますね。最近は3週間くらいで準備しないと、日本でトレンドの最先端を行ききれないようになってきているように思います。

蔵敷:そういうインプットがあってこそ、れなさんだけが掴める感覚や見える景色があって、そこからパッと飛び出す発言が“天才肌”に見えているというか(笑)。でも、そのインプットは一朝一夕にできるものではないから、急に「じゃあ海外のトレンドをいち早く取り込んでみよう」と思ってもできないし、仮にやってもむしろ劣化版コピーなのでは? みたいな少し寒いコンテンツになる気がします。

齊藤:細かいタイミングをミスすると、そうなりますよね。実際に、準備していたコンテンツがあっても「ちょっと熱が冷めているかも」と思ったら全部なしにしてホットなものに差し替えたり、数ヵ月後にそれを使ってみたりすることもあります。何より、滑りたくないので(笑)。

藤平:発想法としては、こうやって言い切るのも乱暴ですが、いかに「テレビCM的」ではなく「インスタのストーリー的」に考えられるか? ってことなのかもしれないですね。これはさっきの話ともつながっていて、SNSの中では広告も広告以外のコンテンツと並列に(境界が融けた状態で)発信されるので、「これなんとなくエモいでしょ?」という解像度では、太刀打ちできなくなる。

齊藤:そうですね。企業側が言いたいことを詰め込んだコンテンツは、テレビCMではそんなに嫌悪感を抱かれることもないですが、Instagram、TikTok上では本当に毛嫌いされます。SNS上のコミュニケーションは、いわばみなさんのライフスタイル(生活)にお邪魔するわけですから、見て下さる方の好き好みに寄り添っていく必要は当然あると思っています。

藤平:ぼくは、よく語られるマスとデジタル(SNS)のアプローチの乖離の本質は、「作り手がそのチャンネルの発信者か」ということのような気がしています。ラジオ・テレビ・新聞・雑誌などにおいては、広告会社のクリエイターは「広告枠のプロ」として価値を発揮できた。実際、テレビ番組を日常的に作っている必要はなかったし、そういう立場でもなかったわけです。一方で、SNSは「広告枠のプロ」では不十分で、まず「そのメディアの発信者として豊かである」経験が必要になる。そこの厚みみたいなものが足りていないことで、リアルが“わからなく”なってきているのではないでしょうか。

 けれど、さっきのれなさんのインプットの話じゃないですが、業務として無理に向き合ってしまうと、悲しきかな、邪魔だと思われるものを作ってしまうんですよね。今はSNSの話をしましたが、これはぼくらがMZ世代向けに何かをする時に、ケアしないといけない共通課題かもしれません。とにかく「当事者」にならないと、どんどん乖離していってしまう。

齊藤:SNSは、ルールの移り変わりも、旬のコンテンツの消費も全部が速いですから。トレンドを見続けていないと、キャッチアップできないプラットフォームですよね。旧メディアはいち視聴者として受け身でいても情報を仕入れられていたけど、SNSはその姿勢では分析までできないように思います。

蔵敷:積極的に情報収集していない人“でも”知っているMZ世代は、少し色あせているか、わかりやすく歪曲しているかのどちらかなことが多い気がしていて。その知識でMZ世代論を片付けようとするから、これまで話にあがったような良くない例になってしまう、という悪循環なのかもしれません。エスノグラフィー的ですが、インプットにおいて「メディアやサービスの当事者である」ということを大切にしないと、と思いました。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/12/14 10:43 https://markezine.jp/article/detail/40225

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