“いかにも”すぎるMZ世代ブランドの危うさ
MarkeZine:MZ世代をターゲットにするブランディングは、なんとなく「今っぽいイケてるブランド」を目指す域を超えていない印象があります。トレンドで消費されない、本質的な価値を見出すにはどうすべきだと考えますか?
齊藤:それに関しては本当に、「MZ世代向け」というタイトルがついた瞬間、「さらっとしたシンプルなデザインにすれば売れるかも……」みたいな説が世の中に充満していますよね。
藤平:デザインの話が代表的ですが、“いかにもMZ世代っぽい”というようなブランドやビジネスは飽和してきており、そろそろボーナスステージが終わるんじゃないかと思っています。
蔵敷:おそらく、インサイトや価値の翻訳の深さの問題ではないでしょうか。MZ世代に対する解像度が緩い状態だと、「新しい価値観を持った新世代にエモいブランドをつくろう!」みたいな解釈になりがちな気がしています。かつ、ターゲットについてあまり知らないときは先行事例のケーススタディをすると思うのですが、今は“っぽい”ものが多いので、結果、そこからまた似たようなものが生まれてしまう、という良くないサイクルもありそうです。
たとえば「エモい=Z世代に刺さる」も危ない間違い
藤平:僕これ気になってたので聞きたいんですが、「エモい」という言葉をもう少しちゃんと言語化すると、みなさんどうなりますか? 大学時代、もう10年前ですが、同じゼミの友人がことあるごとに「エモい」って言っていて、その時はまだ全員ポカンって感じだったのに(笑)。
飯村:Z世代にとって「エモい」は、「他人に共感されたい」という欲を満たすものなのではと思っています。共感性を生むコンテンツ=エモいという感情につながるコンテンツ、みたいな感じでしょうか。
齊藤:みんなにエモいと思ってほしくて、共感されたくて、SNSで「これエモいでしょ?」って発信している、ということか。
藤平:へー、その解釈は新しい、というか難しいですね。けっこう他律的というか、自分がエモいと思うのではなくて、自分の周りにいる人がエモいものが好きだから、それを発信して共感や応援を集めているという。

齊藤:私にとっての「エモい」は「懐かしい」っていう感情に近いです。大失恋した時のこととか、がむしゃらに頑張っていた時とかを思い出しての「エモい」ですね。
藤平:あー、僕も同じです。Z世代は他者からの共感もセットになってのエモさだけど、僕らミレニアル世代はどっちかというと昔の自分と今の自分を重ね合わせてのエモさ。矢印が外に向いているか、内に向いているかという意味では、真逆ですね。ただ、これも、あくまでぼくらの具体例でしかないのですが。
飯村:たとえば、あいみょんは存在自体がそもそもエモい。醸し出すオーラとか雰囲気を含めてエモいです。その他に、たとえば、Z世代はカフェで撮ったケーキとコーヒーの写真1枚の色味や画角にすらエモさを感じることもあります。
蔵敷:あ、やっぱりそこに懐かしさはないんですね(笑)。私も「エモい」と感じる瞬間は多々ありますが、話を聞いていると、みなさんと似ているけど、やっぱりちょっと違うのかもしれない。昔を懐かしむみたいな場面もあるけれど、「あ、この瞬間は人生でもう二度と訪れないかもしれない」みたいな、一過性、刹那的、はかなさにもエモさを感じます。
藤平:この会話からの学びは、「エモいを気軽に使うな」ということですね(笑)。「エモい」1つとってもこんなに分解できるわけですから、「MZ世代にはエモいものが刺さる」くらいの解像度でプロジェクトを進めていくとかなり危険そうです。