マーケティング、ビジネスの喜びを味わえたP&G時代
MarkeZine編集部(以下、MZ):前回の記事では、長谷川さんのキャリアを形作ってきた「人生のプロマネ」という考え方を教えてもらいました。ここからは、人生のプロマネをベースに歩んできたキャリアを振り返り、その中で今に活きている学びを紹介してもらいたいと思います。まずP&Gには10年在籍されたとのことで、色々な経験や知見を蓄積されたと思います。振り返ってみて、大きかった学びは何でしょうか?
長谷川:素敵なブランド、素敵な製品には、世界中の人々とその生活を豊かにするパワーがある。P&G時代にこれを実感できたことが、今の自分のコアの部分につながっています。
僕がP&Gで担当したのは、紙おむつの「Pampers」、かみそりの「Gillette」、電気カミソリや電動歯ブラシの「Braun」、そしてスキンケアブランドの「SK-Ⅱ」です。シンガポールに赴任し、アジア全域のマーケティングを統括する経験もさせてもらい、語りきれないほどの学びと成長がありましたが、やはり先ほど挙げた学びが大きかったですね。不治の病を治すほどのインパクトはなくとも、“良い製品”は人々の生活を“リアルに”豊かにするのだということを、実感する日々でした。
MZ:それを実感できるのは、マーケターにとっては最高に幸せなことですね。
長谷川:本当にそう思います。P&Gではたくさんのお客様から嬉しい声をいただきました。たとえば、紙おむつは、赤ちゃんのおしっこを吸収するという機能的な価値だけを提供しているわけではありません。「おかげで子供が夜ぐっすり眠れるようになった」「おねしょの処理をする必要がなくなった分、他のことに手をかけられるようになった」など、お母さんやお父さんの心の余裕にもつながってくるんです。マーケティングをやっていて、「自分たちの製品でお客様が幸せになる。これ以上に嬉しいことはない」とつくづく実感しましたし、この経験が現在のMOON-Xの事業の基盤になっています。
P&Gで養われた2つのスキル&考え方
MZ:P&G時代のことについて、もう少し教えてください。ビジネス界、とりわけマーケティング業界では長谷川さんのようにP&G出身の方々が多数活躍されています。これまで在籍された企業と比較して、P&Gには人材が育つ特異な環境があったと思われますか?
長谷川:率直に申し上げると、僕はP&Gのみが突出しているとは思っていません。世間では様々な企業の出身者が活躍されていますし、みなさん本当に優秀だと思います。
しいて言えば、P&Gにはユニークな点が2つあると思います。
1つ目は、大規模かつグローバルにビジネスを展開しているので、P&Gでは文化背景や価値観の違いに関係なく、定められたプロセスでビジネスを進めていく力が問われます。僕自身、シンガポールに赴任した時はとても苦労しました。日本なら特に言わずとも通じることが一切通用しません。だからこそ、P&Gに根付いている成熟したビジネス手法には助けられましたし、よくできているなとつくづく感心しました。
もう1つは、「Consumer is Boss」という考え方です。P&Gでは、「上司がボスではなく、消費者がボスだ」というこの考え方をしっかり教わります。判断に迷うことがあれば、「お客様と向き合って決めよう」というカルチャーがあって、この考え方は真っ当で正しいものだと思います。今、デジタルテクノロジーにより、消費者とブランド、消費者と製品、消費者とモノづくりの距離感がこれまで以上に縮まっています。「Consumer is Boss」がよりやりやすい時代であり、また顧客視点がより強く求められる時代になっている、という変化もP&G出身者の活躍に関係しているかもしれませんね。