「オンライン購入」の顧客体験に合わせ、商品を開発
オンラインに舵を切って気付いたことは、オンライン購入と店舗購入の違いだ。Minimalはカカオの味わいを最もダイレクトに伝えるものとして、板チョコレート以上のものはないと考えているが「オンライン販売として板チョコレートが最適かというと、そうではなかった」と緒方氏は振り返る。
店舗であれば、食べ比べて説明を聞き、五感をフルに使って意思決定できるが、オンラインは視覚情報のみだ。一度も味わったことのない人が、いきなりオンラインで数千円の板チョコレートを買うのはハードルが高い。
「Minimalは機能的にも情緒的にも語るべきストーリーが多いのが特徴です。ただ、初めてWebサイトを見た人が適切な情報を拾って即意思決定してくださることを期待するのは甘すぎる。だからこそ、初回購入はシズル感があるスイーツで入り口を作る必要があると考えました」(緒方氏)
そこでオンライン向けに商品自体を新しく開発した最初の商品が「チョコレートレアチーズケーキ」だ。

これは、今でもMinimalの中で最も売れる商品の一つとなっている。
「冷凍だからできることにこだわりました。一つ目が形。20センチ×5センチの長方形で、1人でもちょっとずつ解凍して食べやすい。二つ目に、冷凍でもどれだけ美味しいものをちゃんと作るかを追求しました」(緒方氏)
オンラインスイーツの可能性を逆手にとったことが成功のカギとなった。生菓子ではできない価値の提供を実現し、オンライン販売は前年比400%を達成できたという。
「WHYから伝える」ことで組織のNextアクションが加速
順調に変化に対応したように見えるが、「実は内部環境は全くそうではなかった」と緒方氏は語った。従来のピークシーズンである3月を過ぎても、コロナ禍による緊張が続き、スタッフは精神的にも体力的にも疲弊していた。
そこで、代表の山下氏から社員に向けて二つのことが伝えられた。一つは、雇用の維持の方針。安心感を持って働ける前提を明確に伝えた。二つ目は、事業戦略の変更についてだ。新しい事業へと社員一丸となって向かうために、各メンバーの環境変化へのマインドを整えたという。
“チョコレートを新しくするというミッションは変わらない”としたうえで、「役割への固執は捨ててほしい。全ての人がやれることを増やして、成果を上げるためにできることとやるべきことに注力してほしい。今やるべきことはこれまでの商慣習を捨てて全力でECを伸ばすことです」と全社員に伝えたという。ここでポイントだったのは「WHYから伝える」ことだ。
「WHYというのは動機の源泉ですよね。全員のモチベーションを揺るがさないことは大前提。さらにコロナ禍のような緊急事態の場合は、包み隠さず現状を伝えることが大事だと思いました」(緒方氏)
こうして現状と動機のすり合わせができたら、次はアクションを音速で行えるかどうかがカギだ。Minimalは次々とオンラインの施策を展開した。
「スイーツチャレンジ」という企画では6ヶ月の期間限定で毎月新作のオンラインスイーツを届けた。同企画は「開発広報販売の100本ノック」ともいえ、これを通してMinimalの開発、広報、販売速度は猛烈に上がり、オンラインスイーツについての認知が高まる効果もあった。

さらにブランドパーセプションのアップデートも行った。「本格的オンラインスイーツと⾔えばMinimal」というパーセプションの獲得を目指して、ECサイトもリニューアルした。
Minimalとしてどこを目指し、そのためにどう組織が変化・進化するべきなのか。経営層だけでなくスタッフが一丸となって議論し、行動できたことが、一体感の高まりにもつながったのだろう。