グッズドミナント型のマーケティングはもう通用しない
——長年マーケティングに従事されてきた森井さんからご覧になって、マーケティング業界はどのように変化しているとお感じですか。
マーケティングというものの定義が大きく変わってきていると感じます。昔はモノを売るための1つの方法論でしたが、近年はSaaSビジネスのように「サービスを売る」という概念が出てきました。モノだけでなく、サービス全体が価値を生んでいる「サービスドミナントロジック」という考えですね。当社もモノだけを売っているわけではありません。最近では「Yohana」という家事支援サービスをスタートしました。

組織の大きさだけでなく、このようにモノとサービスが組み合わさった状況が、組織をより複雑にしていると感じます。マーケティング面で見ても、コトラーなどが提唱した「グッズドミナント型」の考えは、もう通用しなくなってきているのではないでしょうか。物心一如にも通じますが、グッズドミナント型とサービスドミナント型のマーケティングを組み合わせていくことが求められるでしょう。
では、どのようにしてサービスドミナントロジックをマーケティングに取り入れていくのか。その答えは、データの中にしかないと私は考えます。とにかくデータを集めることが大切です。
ペルソナで戦略を立てるのは、やめなはれ
戦略を立てるために、ペルソナを考えたり、リサーチをしたりしているマーケターも多いですが「やめなはれ、そんなことをやっても答えは見つかりませんよ」と伝えたいです。仮説を立てるためにペルソナを描くのは結構ですが、それだけではソリューションになりません。昔のマーケティングはセンスを駆使して、ブラックボックスの中でメディアを使いながら仮説を検証していくものでした。SNSが浸透した今の時代は、ブラックボックスが存在しません。検証に使うべくは、センスではなくデータベースです。そういうプラットフォームやアーキテクチャーを作ることのできる人がマーケターだと考えます。
仮説を立てるのは良いですが、検証する際は一旦忘れるようにしましょう。「購入された」というエビデンスがあるのなら、そこから遡って考えることが大切です。データドリブンマーケティングという言葉が定着する前、私はこの手法をバックキャストマーケティングと呼んでいました。置かれている立場をデータで分析してバックキャストしていくこと、そして未来を予測するためにAIを使っていくことが求められていると思います。
——最後にパナソニック ホールディングスの展望をお聞かせいただけますか?
松下幸之助は「パーパスの実現には250年かかる」と言っていました。幸之助が物心一如を語り出したのは約100年前なので、道程はまだ半分にも至っていません。したがって、私たちはあと150年かけて物心一如の理想社会を追求し続ける必要があります。環境問題については2030年と2050年にマイルストーンを設けているため、着実に取り組み達成します。社会に約束した以上、守らないといけません。パナソニック ホールディングスとして「幸せの、チカラに。」とPanasonic GREEN IMPACTの実現に向けてアクションし続けます。