CX向上の先に、中長期的な収益の拡大を目指す
――CX戦略部の組織が立ち上げられたとしても、全社で一丸となって体験価値の向上に取り組むというのは、そう簡単なことではないと思います。各部門を巻き込んで戦略を実行できているのは、なぜなのでしょうか?
現場にいるANAグループの社員だけでなく経営陣もお客様の声に向き合い、どうすれば体験価値を上げられるかを一緒に考えている、というのがまず一つ大きいと思います。実際に、代表取締役社長の井上がCX戦略会議の総括を務める形でCX戦略を推進しており、現場の社員と同じ粒度の情報で議論を行っています。
また、顧客満足度から他者推奨意向(以下、NPS)へ経営指標の変更もありました。冒頭でもお話ししたように、ブランド戦略で我々が目指しているのは、「世界中のお客様に“選ばれ続ける”ブランドになること」です。つまり、ANAを利用した瞬間の満足度だけでなく、搭乗から時間が経っても「やっぱりまたANAに乗りたい」と思ってもらえるような価値を提供しなければいけない。CX向上の先には、NPSやロイヤリティの向上、そしてLTV拡大があるという考えのもと、NPSを経営指標(KGI)にしています。さらに、先述したANA利用における28のシーンについて、それぞれのシーンの満足度を高めることでNPSがどう向上するかという関係性を「ANA CXツリー」として構造化しました。これによって各部門のKPIとNPSの相関関係を見るなどの取り組みも行っています。
――そうした取り組みが、結果として「CXランキング2022」にも表れたんですね。
様々な業種業界のブランドがあるので単純に優劣を比較することはできませんが、3位にランクインできたことは純粋に嬉しく思っています。航空業界ではイギリスの第三者評価機関「SKYTRAX(スカイトラックス)」による評価が、グローバルで共通の評価指標の一つとして重視されているのですが、ANAは2013年より10年連続で最高評価の5スターを獲得しています。10年連続の5スター受賞は日本初の快挙であり、我々がずっと目標としていたことでもありました。航空業界でもコモディティ化が進む中、「いかにしてお客様に選んでいただけるか」がANAの競争力へと繋げるため、さらなるCX向上に取り組んでいきます。

――近年では、アプリの提供などデジタルの活用にも注力されています。
はい。今年5月にスマートフォンを使った新しいサービスモデル「ANA Smart Travel」を発表しました。旅行や移動に関しても、機内での過ごし方に関しても、お客様のニーズはますます多様化しています。サービスのセルフ化やパーソナライズ化が進む一方で、それらを好まれないお客様も一定数いらっしゃいますし、やはりデジタルだけではダメなのです。「ANA Smart Travel」では多様化するお客様のニーズを捉え、より利便性の高いサービス提供を目指していきますが、人によるサービスとデジタルのバランスは考えていきたいと思っています。また、提供しているANAアプリでは、機内誌や映画・ドラマなどのエンタメコンテンツをご覧いただけるほか、機内食・機内販売のプリオーダーも可能です。これらは、食品や製品の廃棄ロス削減に繋がりますし、機内誌をデジタル化することで荷量を抑えられるので燃料の削減にも繋がります。ESGや衛生・清潔、ユニバーサルの観点からも、サービス強化に取り組んでいきます。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
ANAは今年創業70周年を迎えました。まだまだ業界全体が厳しい状況にあるので、経営の効率化や費用の削減が求められるのは当然として、そんな中でもブランド体験価値を上げていくことは非常に重要だと考えています。先の見えない時代に、お客様のニーズや行動変容をしっかり捉え、カスタマーインのCX向上を継続していく――これには終わりがありません。そして、社員がモチベーション高く楽しく働けていないと、お客様にANAのブランド価値が伝わることは絶対にありません。デジタルと人と、両方の力をうまく合わせて、安全安心を第一に、カスタマーインのCX創造に取り組んでいきます。