改善のプロセス化と必要スキルの定義で顧客目線のサービスに
MZ:続いて、「My Yamaha Motor」のサービスを提供するうえで直面した問題や、特に意識されたポイントをお聞きできればと思います。
村松:まず、サービスをリリースするにあたり私たちが考えるアイデアが「本当に顧客の体験向上につながっているのだろうか」という点に疑問を抱いていました。企業の目線と顧客の目線が一致しているのか、本当に顧客ニーズに沿った形のサービスになっているのかという課題感がありましたね。
川口:加えて、今回は初めてのモバイルアプリの開発でした。そのため、アジャイル開発やリリース後のアップデートを実際にどう進めていくべきかの知見がない、BtoCサービスの正解がわからないという問題に直面しました。
MZ:それらの課題を解消するために、どういった取り組みをされましたか?
村松:まず、一つ目の課題のために取り組んだのがプロセス化です。サービスにおける体験の改善で知見をお持ちのビービットさんに支援してもらい、これまで感覚頼みだった改善のアイデア出しのやり方から定め直しました。
たとえば改善といっても、必ずしもプラスの積み上げをひたすらやっていけば済むという話ではなく、駄目だったらやめる、評判が悪かった箇所を重点的に変えるなどの対応が必要ですよね。しかし私たちは製造業ですので、いったん世に出したものに対してアップデートをかける発想がそもそもなかったわけです。そういった考え方や手法を知り、プロセス化するところから始めました。
また、サービスの提供や改善で必要なスキルの定義と人材育成もビービットさんと一緒に行いました。お話しした通り新たなサービスに対応した土壌がなかったので、組織や人材作りから始めないといけません。そのためにまず必要なスキルを洗い出して定義し、トレーニングをするという形を取りました。
企業目線をユーザー目線にそろえる「UXグロース活動」とは?
MZ:課題解消のための支援に取り組まれたビービットさんから、支援のポイントについて伺えればと思います。
進藤:私たちは、UX(ユ―ザー体験)の向上・改善によって顧客にサービス・プロダクトを利用し続けてもらい、ファンになってもらうことを目的にした活動を「UXグロース活動」と定義しています。
その手段としてUXを向上・改善し、その結果、継続的にビジネス成果を向上させることをゴールとする形で支援しております。ヤマハ発動機さんがデジタルサービスに着手した背景や目的はまさにこのUXグロース活動と一致しており、現在もサポートさせていただいています。

進藤:UXグロース活動ではファーストステップとして、対象サービスで達成したい状態を定義します。そのうえで、改善のテーマ決めとユーザー体験の流れにおける仮説の可視化をチーム内で共有することからスタートします。そうやって共通認識を持ったうえで、どこが今ボトルネックで改善余地が多いのかを定量的なデータを用いながら擦り合わせます。
重要なのは、数値データだけでなく質的なデータも用いることです。そのためユーザー一人ひとりの行動を追って体験する形で問題の洗い出しと原因の分析を行い、それを解決する改善施策を立て実装する。実装したらそれで終わりではなく、振り返って仮説を検証していくという流れで回していきます。
村松:私たちもアプリの操作ログを可視化できるようにして、あるステップを踏んだユーザーが来店して評価をどう付けたのかなど分析できる仕組みを入れたことで、具体的かつ客観的にユーザーの追体験ができるようになりました。