Instagram「発見型コマース」が示す、EC×SNSの可能性
MarkeZine編集部(以下、MZ):2022年9月、Meta日本法人 Facebook Japanと楽天の共同開発による新たな広告ソリューション「Ichiba Dynamic - Facebook」の提供が開始されました。インターネット・ショッピングモール「楽天市場」への誘導や売上拡大を可能にする「Ichiba Dynamic - Facebook」は、近年Instagram内で注目度が増しているコマースの機能をさらに高めるものと見ています。まずは、Instagramコマースの概況からお聞かせいただけますか?
大前:我々はMetaのプラットフォームにおけるコマース関連機能を「発見型コマース」と位置づけ、特にInstagram内にあるショップ機能のさらなる拡充に取り組んできました。この記事を読まれるみなさまも、自分の興味関心に近しい商品やサービスをInstagram内の広告やオーガニックの投稿でよく見る、あるいは新たな商品を発見したというような経験をお持ちではないでしょうか? Instagramでは、アルゴリズムをもとに利用者一人ひとりの興味関心・好みに合わせたコンテンツを表示させており、これによる特徴を表すものとして「発見型コマース」を提唱しています。
もう一つ、Instagramコマースは「発見」「検索」「比較」「検討」「購入」と多様なフェーズで利用されているという特徴もあります。とりわけ日本の利用者においては、Instagram上で自ら情報を収集するという行動特性が強くあり、Instagramでハッシュタグ検索をする回数がグローバル平均の約5倍、投稿の商品タグから商品詳細を閲覧しに行く利用者の割合が同じくグローバル平均の約3倍といった数字も出ています。日本は特にInstagram×ECの親和性が高く、広告主においても大きなチャンスがある領域だと捉えています。
楽天×Metaの最新ソリューション「Ichiba Dynamic - Facebook」
MZ:広告主のチャンスをさらに大きくするのが「Ichiba Dynamic - Facebook」ですが、このソリューションの開発はどういった経緯で進んだのですか?
Ichiba Dynamic - Facebookとは?
「楽天市場」に出店している事業者が、「楽天市場」上の商品情報をデータフィードとして、Facebook/Instagram上でダイナミック広告を配信できるソリューション。楽天会員ランクに基づく消費行動分析データを活用して、一人ひとりに最適な商品をデータフィードの中から自動的に選定し、配信を行う。
大前:「Ichiba Dynamic - Facebook」は、Metaの「コラボレーション広告」というプロダクトをベースにして作られています。コラボレーション広告とは、「楽天市場」のようなマーケットプレイスにおける商品データを用いて、Facebook/Instagram上に直接ダイナミック広告を配信できるプロダクトです。実は、このコラボレーション広告は、現在世界的にとても注目度が高まっており、かなり活発に活用がされています。売上を見ても、マーケットプレイスが自社で行っているマーケティング活動費と同じ規模感まで大きくなっており、世界中で活用が進んでいる状況です。
コラボレーション広告ではマーケットプレイスに対して高いオンボーディングの基準を設けているために、日本では新規マーケットプレイスの参画がなかなか進んでいなかったのですが、今回日本最大級のマーケットプレイスである「楽天市場」を運営する楽天様に参画いただくことができました。コラボレーション広告のさらなる活用が進み、広告主に対しても良い機会を創出できるだろうと思っています。
小川:楽天としては、「Ichiba Dynamic - Facebook」の共同開発には大きく2つの目的がありました。一つは、「楽天市場」に出店いただいている店舗様へ売上最大化につながる広告ソリューションを提供するということ。もう一つは、「楽天市場」のユーザー様一人ひとりに合わせて最適な形で商品をレコメンドし、利用体験の向上に寄与するという目的です。
「楽天市場」をご利用いただいている方々も、当然のことながら24時間365日「楽天市場」を利用されているわけではありません。限りある可処分時間の中で、InstagramなどのSNSを見てモノを探したり、発見したりすることも多いはずです。そのため、「楽天市場」の外で、商品購買につながるモーメントを捉えコミュニケーションを行っていくことが重要だと考えています。先ほど大前さんが発見型コマースのお話をされていましたが、楽天としても、良質な配信面で最適なコンテンツを表示できるFacebook/InstagramはECと相性の良いメディアと捉えています。楽天が蓄積する膨大な消費行動分析データを掛け合わせることで大きな価値を創出できると考え、今回の開発を進めました。
楽天の消費行動分析データ×Metaのアルゴリズムで最適な配信を
MZ:「Ichiba Dynamic - Facebook」について、その仕組みをもう少し詳しく教えてください。
大前:「Ichiba Dynamic - Facebook」でアルゴリズムがしっかりワークするように、楽天様から3.7億点以上(2022年11月末時点)の商品データをFacebook/Instagramに連携いただいています。この商品データと消費行動分析データをもとに、いつ・どんなプロダクトを広告で表示させると利用者にとって利便的価値が高くなるか? をMetaのアルゴリズムで判断しながら、広告を配信するという形です。
MZ:楽天の会員に基づく消費行動分析データをFacebook/Instagram広告配信に活用できるというのは、広告主にとってかなり魅力的ですね。
小川:はい。楽天は現在1億以上の楽天会員のデータを蓄積しています。こうした高精度なデータをオーディエンスとして広告配信に活用できるというのは、多くの企業様が一番価値を感じてくださっているポイントです。
また、大前さんに触れていただいた3.7億点近くの商品データ。これも最大級のインターネット・ショッピングモールを運営している楽天ならではの規模で、非常に大きな強みです。「Ichiba Dynamic - Facebook」ではこれらの「オーディエンスデータ」と「商品データ」を用いて、ターゲティングの設定を自由度高くカスタマイズすることができます。
たとえば、アルゴリズムに任せて店舗内の全商品に対して配信設定をかけたり、特定の商品をプッシュしたりすることが可能です。さらに、「楽天市場」内だけでなくオンライン上のオープンデータも活用し、親和性の高いオーディエンス群を探索する「楽天スクリーム」が提供するソリューション、楽天が展開する70以上のサービスを通じて蓄積する消費行動分析データを基に消費行動を理解し、マーケティングに活用するAIエージェント「Rakuten AIris(楽天アイリス)」らによるターゲティングの設定も行っていただけます。ターゲティングにおいてカスタマイズできる領域とその精度は、自信を持っておすすめできるポイントです。
そして、配信対象とする商品は、特定店舗の全商品/特定商品、店舗横断での特定商品など様々な切り口で設定いただくことができ、「楽天市場」へのご出店形態、施策目的に合わせてカスタマイズいただけます。
効果的な活用のポイントはある?
MZ:プラットフォームをまたいだ広告配信となると、効果計測が気になるところですが、どのような機能を提供されていますか?
小川:昨今、プライバシーや個人情報保護の観点から、サードパーティーCookieの規制を筆頭に効果計測は難しくなってきています。ただ、この流れは我々も少なからず影響を受ける反面、むしろポジティブに捉えている側面もあります。楽天としては、ユーザーからの利用許諾が取れているファーストパーティーデータを最大限に活かすことで、独自の立ち位置で広告主様のマーケティングに貢献していきたいと考えています。その一環として、「Ichiba Dynamic - Facebook」においても、楽天IDをベースとした独自の高度な購買トラッキングツールをご提供しています。
MZ:「Ichiba Dynamic - Facebook」を効果的に活用するポイントはありますか?
大前:「Ichiba Dynamic - Facebook」に限らず、Metaでは、Facebook/Instagram広告においてターゲットのボリュームや配信面、広告フォーマット、対象とする製品数などを人為的に絞り過ぎないことを推奨しています。人為的に制限するのではなく、アルゴリズムに柔軟性を持たせることでパフォーマンスを最大化させることができると考えているからです。
小川:同意です。昨今、広告プラットフォーマーが提供するアルゴリズムは非常に優秀なため、絞り過ぎないという点は重要です。パフォーマンスを最大化しようと、何かと手を打ちたくなるものですが、ある程度アルゴリズムに任せるというのは大切なポイントだと思います。
ただ、少し逆説的な話になってしまうかもしれませんが、先にお話ししたとおり、楽天が蓄積する消費行動分析データをもとに、目的や課題に応じたターゲティング設計をすることの重要性も強調したいところです。たとえば、一般的なダイナミック広告では、リターゲティングに偏った配信になってしまうことが少なくありません。このとき、表面的な広告効果だけを見て運用し続けていると、ターゲティング母数の縮小により獲得効率が低下し、ふたを開けてみると売上が全然伸びていなかったというような事態に陥りがちです。一方、オーディエンスを設定しないブロード配信では、最適化に時間がかかりすぎてしまい、マーケティング費が嵩んでしまいます。そのため、やはり、データをもとにしたターゲティング設計にはぜひ取り組んでいただきたいです。
MZ:楽天が蓄積する消費行動分析データとAI×Metaのアルゴリズムの相乗効果を狙って、うまく活用することが求められますね。
アイロボットジャパンは、施策全体でROAS目標の2倍以上の成果を記録
MZ:「Ichiba Dynamic - Facebook」を活用した企業は、実際にどのような成果をあげているのでしょうか?
小川:「Ichiba Dynamic - Facebook」をリリースしてから数ヵ月が経過しましたが、既に多くのお客様にご活用いただいています。中でも、アイロボットジャパン様はかなり早期から「Ichiba Dynamic - Facebook」を活用してくださり、高い成果をあげられています。
アイロボットジャパン様の主力商品であるロボット掃除機の商材特性上、リピートして購入するユーザーは少なく、新規ユーザーをいかに効果的に獲得できるかが重要な課題でした。そこで、通常のリターゲティングに加え「楽天スクリーム」のAIを活用したプロスぺクティングターゲティングを行い、フルファネルをカバーするキャンペーンを展開させていただきました。結果としては、施策全体で目標のROAS値に対して2.1倍、「楽天市場」の「楽天スーパーSALE」「お買い物マラソン」などのイベント期間だと2.6倍という非常に高いパフォーマンスが発揮されています(ROAS定義:クリック経由のみ、アトリビューションウィンドウは30日)。
興味深かったのは、「楽天スクリーム」のAIを活用したターゲティング配信です。オープンインターネットのデータを分析すると、ロボット掃除機のターゲットとして「ブログ関心層」が浮かび上がってきました。一見すると、高単価なロボット掃除機とブログ関心層には関連性がないように思えます。そのため、通常広告を運用する者の経験や感覚に基づくプランニングでは、なかなか提案されづらいターゲットですが、「楽天スクリーム」のAIを活用することで、こうしたデータに基づいたオーディエンス探索を行うことが可能となります。結果、ターゲットの単体ROASは目標値1.4倍と大幅に達成できたほか、直近2年間で対象店舗での購買実績がない方による新規購入率が93%となり、新規顧客の獲得という施策の目的も果たすことができました。アイロボットジャパン様の施策は、楽天が蓄積する消費行動分析データとAIソリューション、そしてMetaの精度の高いアルゴリズムを掛け合わせることで、カスタマイズ性の高い配信設計やプランニングができることを再認識した事例です。
ほかにも、商品のクロスセルやリピートを促すような配信も可能です。たとえば、あるスキンケアブランド様では、新規ユーザーの獲得を目的にトライアルキットの訴求を行った後、そこで獲得した新規ユーザーを対象に正規の商品を訴求しクロスセルを狙うといった施策を行いました。企業によって、EC事業で持たれている課題感は様々ですので、それぞれの課題や目的に応じてカスタマイズしながらご活用いただけます。
EC×SNSにあるチャンスを、広く日本市場にも届けていきたい
MZ:最後に、「Ichiba Dynamic - Facebook」の提供拡大に関して、両社から展望をお聞かせください。
大前:コラボレーション広告は、世界のマーケットプレイスにおいてかなり規模感の大きいプロダクトになってきています。マーケットプレイスとブランド双方にとって、欠かせない定常配信の一つという位置づけにもなっているので、「Ichiba Dynamic - Facebook」もそのような存在になれるよう、これから機能拡充を含め、楽天様との取り組みを深めていきたいと思っています。
そして、2023年は様々なアップデートを予定しています。たとえば、クリック最適だけでなく、CVやROASなど最終KPIに近い指標での最適化ができるよう、現在機能を開発中です。どんどん機能開発を進めていく計画ですので、ぜひ施策を継続しながら、パフォーマンスをモニタリングして、成果の良し悪しをご判断いただければと思います。
小川:「Ichiba Dynamic - Facebook」は、「楽天市場」にご出店いただいている店舗様のビジネス成長をアシストできる非常に効果的な広告ソリューションであるとともに、ユーザー様にとっても新商品を発見したり、お得情報をキャッチしたりなど、より良質な購買体験をFacebook/Instagram上で実現できるツールだと感じております。引き続きMeta様と協力し、「楽天市場」にご出店いただいている店舗様、ユーザー様の双方にとってwin-winな関係を構築できるよう、ソリューションのアップデートに努めてまいります。