「マーケター」or「マーケティングワーカー」
鹿毛:自分の中の女子高生に近づくためには、ステレオタイプを捨て去らなければなりません。女子高生は往々にして「恋愛の話を好む」「複数人でつるむ」などのイメージで語られがちですが、世の中には様々なタイプの女子高生がいます。多くの方は、ステレオタイプに分類することをマーケティングだと勘違いしているのではないでしょうか。恋愛に興味がない子や、1人で過ごすことを好む子もいるかもしれないのに。

鹿毛:大人になった僕だって、招待されたパーティーに知っている人が1人も来ないなら行きません。この心理は、複数人でつるむのが好きな女子高生とほぼ同じです。対象を理解するためにはまず、自分の中に対象と同じ心・気持ちを見出します。その後に女子高生と話をするのです。「僕は女子高生のことはわからないから」と自分の中に見出しもせず、当事者に聞いて教えてもらおうとしても、それはマーケティングとは言えませんよね。
田部:お話をうかがいながら、鹿毛さんは「人間の本質は変わらない」という前提に立っていらっしゃることがわかりました。多くの人は「インサイトが世代や属性によって異なる」と考えているため、調査やデータに頼ってしまうのだと思います。そうではなくて「人間の根底にある感情や欲求は同じ」という前提を持つことが大事なんですね。
鹿毛:まずは「人」に思いを馳せるべきだと思います。自分ではわからないから誰かに聞いて、聞いたことを分析・分類するだけの人は、マーケターとは言えません。それはただのマーケティングワーカーですよね。
心のパンツを脱ぎ、煩悩を見つめよ
鹿毛:以前、築地本願寺の住職と話す機会があったのですが、住職によると人間は5%の顕在意識で動いているそうです。残りの95%は潜在意識で、仏教では潜在意識のことを「煩悩」と表現します。僕たちの中には煩悩があり、煩悩は人類共通のものです。その煩悩に対して価値を提示するのが企業であり、商品・サービスだと思います。
田部:煩悩ってめちゃくちゃ面白いですね。「インサイト」は広告業界でよく使われる言葉だと思うのですが、95%が潜在意識なのだとしたら、インタビューや調査からインサイトは出てこないことになります。
鹿毛:デプスインタビューをする際、多くの人は「なぜ」とストレートに聞こうとしますが、僕はそうしません。「なぜ」と問うと相手は必ず理屈を探すからです。人間の顕在意識はたったの5%。本人が「自分の意思で選んでいる」と思っていても、全部を信用するのはご法度だと思います。これは顕在意識を否定しているわけではなく、本人にも見えていない95%が存在し、それをマーケターが見つけなければならないという話です。
95%の部分、つまり煩悩を知るためには、心のパンツを脱がなければなりません。でも、心のパンツの中を見過ぎると鬱になります。それぐらい見るに堪えないものを抱えて人間は生きているんです。ただし、真のマーケターになりたいなら嫌なものも見ないといけない。嫌なものを見ずに人の心なんてわかるはずがないですよね。
