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MarkeZine Day 2022 Autumn

経営にLTVを実装する。西口一希氏が語る、経営とマーケティングを「顧客起点」でつなぐ方法

「1対1」と「1対マス」の間に最適解がある

 かつての“マス”向けのマーケティングは効力を失い、顧客を精緻に理解することが大事だと述べました。とはいえ、1対1のビジネスではスケールしません。そこでマーケターや経営者は、1対1と1対マスのマーケティングの間にある、投資対効果が最も高まる顧客を見いだして適切にアプローチすることが求められます。

 この答えを探すために、まず役立つのが、前著『顧客起点マーケティング』で紹介した「5segs(顧客ピラミッド)」と「9segs」です。未認知顧客を含めて、顧客を5つまたは9つに分類し、人数とその推移を把握します。

 9segsは、5segsに「明日の予想を加えた」分類だといえます。5segsの未認知顧客以外の4層を、「NPI(Next Purchase Intention:次回購買意向)」の有無でそれぞれ2つに分けたものです。「次の機会にも(には)買いたい」と答えた人を「積極」、買う意向がない方を「消極」と分類しました。NPIは、私が共同創業したM-Forceにてビジネス指標としての有効性を研究しており、これまでにビジネスとの相関などが確認されています。

 顧客理解と分類について解説しましたが、当然ながらその方々の心理を変え、行動を変える提案が大事になります。どのようなプロダクトも「独自性」と「便益」の有無で分けることができ、いずれも兼ね備えたものを「アイデア」と称しています。

 そして、独自性が強いほど価格プレミアムが取りやすくなります。競合への代替性がないので、高くても買っていただけるわけですね。一方、便益の強さは継続性、リピートに結びつきます。ここ数年、LTVの考え方に注目が集まっていますが、価格プレミアムと継続性はLTVを最も大きく左右する要素です。

顧客戦略とは、WHOとWHATの組み合わせ

 価格プレミアムと継続性について、例を挙げて解説してみます。たとえばネスレ日本さんのインスタントコーヒーは、1杯あたりに計算するとかつては10円ほどでしたが、ソリュブルという溶けやすい商品に改良され、15円ほどになりました。ただ、この段階ではまだ競合が多数存在します。一方、近年は独自性が強い「ドルチェグスト」というカプセル式コーヒーマシンを開発し、定期便モデルで顧客を獲得しています。1杯の価格は50-80円と高めですが、便利でおいしいと支持する人にとっては代わりのマシンやサービスがないため、価格プレミアムが成り立っているわけです。

 誤解しないでいただきたいのは、定期便だから支持されたわけではないことです。サブスクリプションモデルやSaaSビジネスは現在も流行っていますが、あくまで強い独自性と便益があり「使い続けたい」と思う顧客がいてこそ、SaaSのフォーマットが成り立つのです。

 そして当然、すべてのコーヒーユーザーが高めの定期便を選ぶわけではなく、手軽さや価格などから従来のインスタントコーヒーを愛用し続ける人も一定数います。このように、何に価値を見いだすかは、顧客によって異なります。

 誰に、何を提案すべきか。その考えをフレームワークにしたのが、新著『顧客起点の経営』で発表した「顧客戦略(WHO&WHAT)」です。これもよく誤解されがちですが、プロダクトに「価値」があるのではありません。プロダクトが有しているのは、あくまで便益と独自性からなるアイデアです。それを提案し、顧客が「この便益は自分にとって重要で、他のものも選べないから選ぶしかない」と自分ごと化して初めて「価値」が生じるのです。

 価値は、顧客が決めることです。顧客が誰であるかによって、そこに価値が生じうるかは大きく変わります。なので会議などで「今回の商品の価値は……」といった言葉が出てきたときは、要注意だと思っています。

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マーケティングは経営を顧客戦略で補完する

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/24 08:30 https://markezine.jp/article/detail/41046

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