※本記事は、2023年3月25日刊行の雑誌『MarkeZine』87号掲載の内容と同一です。
論考一覧
- 『コロナ禍から2年、生活者インサイト・行動の今』 西山 陽子 氏
- 『SNS起点の購買行動をいかに創出するか』 GiftX 飯髙 悠太氏
- 『マーケティングにおけるサイバーフィジカルの可能性』 博報堂 須田 和博氏/瀧﨑 絵里香氏
- 『人に寄り添うデータ活用による「需要喚起」と「ブランドエクイティの管理」が今後の統合マーケティングの鍵』 電通 江頭 瑠威氏
- 『分散が進む広告プラットフォーム』 アタラ 杉原 剛氏
コロナ禍を経た需要の変化
最初に紹介するのは、これまでコンシューマーリサーチや購買データ分析を手掛けてきた西山陽子氏による「コロナ禍から2年、生活者インサイト・行動の今」だ。本稿はオンライン家計簿サービス「Zaim」の購買ビッグデータソリューション「Zaim トレンド」のデータをもとに、購買行動の変化およびインサイトを紐解くもの。
2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大初期に厳しい行動制限が敷かれ、人々の消費行動は大きく変わった。しかし、2022年には行動制限が解かれ、コロナ禍以前の雰囲気が戻りつつあると見られている。
しかし、西山氏はコロナ禍以前の消費動向に戻ったわけではなく、「Zaim」の支出データから「支出幅が下落した分野」と「支出幅が増加した分野」があることを分析している。行動制限解除で支出が増えると思われるジャンルは「移動にかかる費用(バスやタクシー、飛行機などの費用や駐車場代、高速料金、ガソリン代など)」「外食費」「旅行や音楽、イベント、レジャー、ジムや映画、習い事など」「結婚式や葬儀に関わる費用」「アクセサリーやファッション、コスメなどのオシャレ費用」の5つである。
「旅行」に関しては60代が需要を牽引しており、「飲み会」は20代、「インターネット関連費」や「電子マネー」は20代~40代が中心となっている。Uber Eatsなどの「食のデジタルサービス」はコロナ禍以降に若い世代での需要が増えていたが、2021年後半からは20代の利用が減少しているようだ。一方で20代~30代の「インターネット関連費」は高止まりし、コロナ禍を経て様々なデジタルサービスの利用が定着したと見て取れる。30代の「習い事」も拡大しており、学び直しや生活・運動習慣を見直す機運が高まっている。
以上を総評し、西山氏は需要が戻ってきたジャンル、特に旅行やレジャー、飲み会、冠婚葬祭といったライフイベントとそれらに関連する服飾費などは、人々が行動制限によって「当たり前ではなかった」と気づかされた項目であり、人々の「価値ある機会を大切にしたい気持ち」に寄り添ったマーケティングが重要になると強調している。
SNS起点の購買行動
次に、SNSマーケティングにおいてUGCの重要性を説く飯髙悠太氏による「SNS起点の購買行動をいかに創出するか」を取り上げる。近年、SNSから購買行動が発生するケースが増加しており、飯髙氏はその要因として、Googleなどの検索エンジンではヒットする情報が膨大すぎて必要な情報に辿り着けないこと、SNSでも信頼に足る情報が増えたことを挙げている。
特にZ世代を中心に「ググる」から「タグる」「タブる」という新たな検索行動が生まれていることは注目したい。Googleでは「ファンデーション おすすめ」と検索してもおすすめ商品のまとめページが出てくるだけで、自分に合っているかどうかがわからない。しかし、SNSでは友人が「夏におすすめのファンデ」と紹介しているなど、キーワード検索では上位に出てこないリアルな口コミに触れられる。こうしたことが、SNS起点の購買行動を生み出したと考えられる。
SNSの口コミと相性がいいのがUGCであり、UGCを組み込んだ購買行動モデルが「ULSSAS(ウルサス)」だ。これはUGCによる認知から始まり、「いいね」を通して気になった情報をSNSで検索し、購買意欲が高まると商品の詳細な情報をGoogleやYahoo!で調べ、実際の購買というアクションが起こり、口コミがさらに拡散するというプロセスである。
インフルエンサーに依頼して口コミをお願いする施策はULSSASとは少し異なる。飯髙氏はSNSの基本は「リアルで小さなコミュニティ」だという。その前提に、SNSマーケティングを始めるには自社のターゲットがどのSNSに多く集まっているのか、どのようなコミュニティを築いているのかを押さえておく必要がある。そして、ユーザーが最も喜ぶことを考えサービスや商品に反映すれば、UGCは自然発生する。その話題化の兆しともいえる小さなコミュニティから生まれたUGCを見逃さないことが重要だ。
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