書籍のポジショニングマップを描いて狙いを定めた
――確かにこのエリアはヒット本が多そうですね。
菅原:一方、ビジネスにも生き方にも使える本で年齢高めだと『イシューからはじめよエ』、若手向けだと『1%の努力』があるかなと。ただ、『1%の努力』も『イシューからはじめよ』も、「大事なことだけやろう」というメッセージは似たところもあるなと感じました。ターゲットに合わせた伝え方になっているから、それぞれの層に売れているんですね。
さらにマップのど真ん中、30代のミドル層を中心に上下の層も取り込んでいると思われた『FACT FULNESS』や『人は話し方が9割』は、それこそ100万部です。さすがにそれは厳しくても、このど真ん中を狙いたいと思いました。
――ヒット本を分解されたわけですね。他に気づいた点はありましたか?
菅原:並べてみると、表紙にも傾向がありました。『ストーリーとしての競争戦略』など右上は硬くて賢そうなトーン、一方で中央寄りはとっつきやすい感じになっている。なので、それも意識しました。
表紙で期待を高めても中身が伴わなければもちろんダメですし、伝え方も業界用語などは一切使わず平易にしましたが、まずはニーズがある人に気づいてもらって部数が動かないと、その先に売り伸ばすことができません。今回、僕自身はこの内容が本になると思っていなかったこともあって、確実に売るために、おのずと作り方がマーケターっぽくなったと思います。

発行前に“売れる気配”をつくる
――では、具体的な販売の展開をうかがいます。大きく分けて発行前、発行直後、そしてその後にいかにロングセラーにしていくかの3段階があると思いますが、発行前後でどういった工夫をされたのでしょうか?
菅原:3段階でいうと、やはり刊行前がいちばん大事だと思います。友人に本の著者や編集者も多いので、話を聞いたりしたのですが、本は発行後に頑張ってもしょうがないというのがひとつの結論でした。後から“売れる気配”を出すのは難しい。なので、初速がすべてだと考えて臨みました。
といっても、芸能人の本とかではないので、発行前にパブリシティで期待を高めたりはできません。無名の著者の本で“売れる気配”をつくるには、大きく2つの要素がありました。発行前のAmazonの予約ランキングと、発行直後の紀伊国屋書店のPOSデータです。
――確かに、この2つは全国の書店さんが参考にするデータですね。
菅原:そうですよね。特に、事前のAmazon予約が重要だと、身をもって知りました。紀伊国屋はあくまで発行後なので、その時点で全国の店舗に並んでいるとなると、ランキングも部分的なものになります。一方、発行前だと全国でAmazonの1店舗しかランキングがないわけなので、数が集約され、信頼性が高くなります。事前にランキング上位なら、仮に知らない著者でも仕入れやすく、また増やしやすくなります。