広告業界・第3の波、リテールメディアとは
「リテールメディア」という言葉を耳にする機会が増えてきた。リテールメディアとは、小売店がオンライン・オフラインの顧客接点を提供している広告媒体を指す。小売店が運営するアプリやECサイト上の各種オンライン広告、小売店の店舗に設置されたサイネージ広告などだ。海外では2016年頃から事例が見られ出始めた。稲森氏は代表的な例としてクローガーとウォルマートを挙げる。
「リテールメディアと一括りにされがちですが、収益の上げ方や配信モデルが異なります」(稲森氏)
クローガーは顧客データ基盤を軸に自社ECサイトやアプリ、店内のサイネージ広告などへの広告配信を展開している。2021年からはテレビCMの連携も始まった。外部への配信も実施しているがインストアメディアと分析基盤に強みを持つ。
一方、ウォルマートは、店舗の規模やデータ量の多さという強みを生かし、広告配信事業「ウォルマートコネクト」を開始している。小売業がプラットフォームを提供したことで、話題となった。また、海外では小売企業だけでなく旅行会社やクレジットカード会社なども自社の顧客データを使った広告事業に乗り出している。
なぜ今、リテールメディアが注目されているのだろうか。稲森氏は背景として、テレビ離れ・サードパーティクッキーの利用制限・店頭のデジタル化の3トレンドを挙げる。特に、「クッキーの利用制限が大きな要因」だと稲森氏は語る。
米国のデジタル広告収益の伸び率を見ると、ウォルマートやAmazonなどのリテールメディアにおいて高い成長率が見られ、広告主もファーストパーティーデータの活用に予算をシフトしている様子が見られる。2000年代、デジタル広告の主流は検索広告だった。2010年代にSNSという波が訪れた。そして2020年代、ECも含めたファーストパーティーデータを持つ小売企業のリテールメディアが第3波となっているのだ。
ツルハホールディングスのリテールメディア
日本でもリテールメディアに取り組みを模索している企業が増えている。その中でツルハホールディングスはID-POSデータ連携による「ツルハグループAD」の提供を開始している。デジタルと実店舗をシームレスにつないでユーザーへ最適な情報を届け、店舗への集客と購買計測までが可能だ。
具体的には、ID-POSデータを蓄積かつ分析し、購買行動を分析した上で、その時々の消費者行動に最適なメーカー広告を配信している。広告配信は有料で行われており、その広告料が新たな収益源となる。その一方、広告配信によって商品が売れる可能性が高くなり、それが店舗売上につながるという効果も生まれている。
ID-POS連動型広告の特徴は2つ。1つは、デジタル施策では不可能なターゲティングだ。ID-POS連携により、購買に基づいたターゲティングや、来店履歴・頻度に合わせた広告配信が可能となる。購買した事実を元にピンポイントに配信ができるので、たとえば、競合商品Aを購入しているユーザーや、自社の商品を直近1ヵ月で買わなくなってしまったユーザーなどへの配信が可能だ。
もう1つは、ROIを最大化する高度なレポーティングだ。ID-POS連動型広告は、配信後の購買行動まで分析が可能だ。施策後の購買継続率を分析することで、正確なROI分析も可能となる。このような高精度なターゲティングと購買行動分析により、販促効果を可視化できる。