マズロー×シュワルツの理論を掛け合わせた「欲求オクタグラム」
「欲望」が形成されていくメカニズムとして、不変かつ普遍的な「根源的欲求」と、個々人が持つ「価値観基盤」という変数を掛け合わせるアプローチを発見したというところまで、前のページで解説しました。欲望のメカニズムをさらに深く研究するために、まずは「根源的欲求」を明らかにしていきましょう。
「欲求」については、マズローをはじめとする多くの先人たちにより古くから研究が行われ、諸説存在しています。私たちは多くの文献、論文を読み、そこに多くの発見をしました。その中で、マズロー、マレー(※2)の「39の欲求リスト」、シュワルツ(※3)の「価値理論に基づく欲求分類」、アダルファー(※4)の「ERG理論(※5)」などを俯瞰で眺めた際に、「すべての欲求を完全にカバーしたモデルが存在していない」という事実に気づきました。
たとえば、下図のとおり、マズローの欲求5段階説とシュワルツの欲求の分類とでは、分類の軸が異なるため、差異が生じています。大きな違いは、マズローは「低次の欲求が満たされるごとに、もう1つ上の欲求を持つようになる」という“成長軸”で分類しているのに対して、シュワルツは「個人⇄社会(内と外)」「防衛⇄拡大」という2つの軸で切った4象限で分類しているところです。


そこで、「生理的・安全的欲求」に始まり「自己実現」へと向かうマズローの成長軸に、内と外という視点を加えることで、より網羅性のある欲求マップが作れるのではないかと考えました。
中央大学で消費者行動論を専門に研究している田中洋教授に監修していただき、成長軸を中心に置きながら、その両脇に「内(自己への影響)」と「外(社会への影響)」という対立軸を配置し、マズローとシュワルツの図に出てくる各欲求を8つの「根源的欲求」に集約して、構造化。結果、完成したのが下図「欲求オクタグラム」です。

「11の欲望」解説
次に、根源的欲求が価値観と出合い、掛け合わさることでどのような欲望が生まれてくるのか? についてお伝えします。
DDDでは、因子分析(※6)という手法を用いて、現代の欲望の輪郭を明らかにすることにしました。まずは、8つの根源的欲求をアンケートなどで実感を持って回答できる具体的な内容へとブレイクダウンし、43の項目に細分化しました。

その後、43の具体的欲求項目を提示し、反応を確認する調査を電通「心が動く消費調査(調査概要は末尾記載)」において実施。欲求項目への反応を把握し、因子分析を行うことで個々の欲求を組み合わせ結合した結果、下の11の因子が導かれました。

さらに、この11の因子(グループ)を深く分析するため、現代の象徴的な価値観への反応を調査し、どういった価値観の影響を受けているかの確認も同時に行っています。40以上の価値観を重回帰分析し、11の欲求グループと価値観関係の強弱を判定。そこから各因子の解釈性を深め、欲望の輪郭をより鮮明にしていきました。
たとえば、因子2「自由・安楽」における価値観の強弱を解釈していくと下記のようになります。これを私たちは【無理のない事由への欲望】と名付け、このように解釈しました。
無理のない自由への欲望:自由のために闘争する気はなく、あくまでも気ままな自由を。高望みしないことで得られる自由には、キープ感がある

11の欲望因子のネーミングと解釈は、以下の通りです。
