支援企業を横串でつないだ勉強会が好評
──人材育成に携わる人から、マーケターに必要なスキルセットとキャリアプランの“地図”が描けない、という課題を聞いたことがありますが、どの部門でも同じなのですね。
そう思います。裏を返すと、その地図が描けている会社は、働く側からすると魅力的ですよね。ここに入れば自分のキャリアが開けていく具体像が見えるので、優秀な人が集まるマグネットのようになるのではないでしょうか。

──ジャパン・クラウドで支援されている各社には、人材育成や組織強化の観点でどういったアドバイスをされているのですか?
今だけに最適化するのではなく、少なくとも2年後や3年後スパンで、自社の事業がどのくらい売上利益を上げ、社員をどのくらい抱えているかを明確に想像することを提案しています。そこから逆算すれば、ではそれまでにマネジメントは何人必要で、3年かけて採用や育成をするならまず来年は何をすべきか、どんな組織体系が最適か、と具体的に考えていけます。
そのためにも、前述した専門性という観点での業務プロセスの分解は不可欠です。営業に限らずマーケティングでも経理でも、どんなセクションにも有効だと思いますね。たとえば中堅規模の企業だと、マーケティング部やマーケティング担当者は不在でも、展示会のフォローやリリース作成は誰かが担っているわけですよね。兼務の場合も多いでしょうが、それらをまずしっかり理解すると、それぞれの段階で必要なスキルがわかり、適切なキャリアパスを提示できると思います。
ジャパン・クラウドで支援する11社は、それぞれ社長の考えもカルチャーも異なるので、やはりどの会社にも当てはまる正攻法があるわけではありません。グループ会社ではないので、全体としての指針も特にありません。ただ、たとえばインサイドセールスを置いたばかりの会社だと、ノウハウも乏しく社内に詳しい人もいなかったりするので、横のつながりで勉強会を設けたりはしていますね。私たちがファシリテーターに入り、各社の成功例や失敗例を共有していく取り組みは好評です。インサイドセールスだと隔月や毎月など定期的に開いていて、Slackのチャンネルでも活発にやり取りが生まれています。
採用にも必要な、自社の価値観の明文化
──先ほど、組織文化を変えるには新卒採用に目を向けるのも必要というお話がありました。採用に関しては、どういった観点が大事だと思われますか?
一言で表すなら、ダイバーシティではないかと思います。今、支援している複数社はほとんど中途採用が中心ですが、同じようなバックグラウンドの人ばかり採用し、結果として感覚が画一的になってしまうことがあります。100人になったときにダイバーシティがあっても、やはり最初の核が作られるときに考え方が単一的だと、それが踏襲されていくんですね。
もちろん、特にスタートアップでは立ち上がり期にカルチャーの芯となる思想や考え方があって然るべきなのですが、初期メンバーの全員が同じというより、重要な部分が少しずつ重なり合いながら異なる考えも持ち合わせているような。すると、100人になったときの広がりが違うという実感があります。今、ジャパン・クラウドで支援する数社では、いかに初期段階で多様な考え方を加えていくかを意識して採用活動をしていて、割と機能している手応えがあります。
──芯は共有しながら多様性の担保にもつながる人を、入社前の段階で見極めるのは、また難しいことのように思えます。どうすればうまくいくのでしょう?
そうですね、最低限できることは、自社の価値観を言語化・明文化することです。それがミッション、ビジョン、バリューの定義にもつながっていくと思います。たとえば「自社にとって『顧客志向』とはどういう行動を指すのか」を定義し、そういう行動を取るかどうかはどんな質問をすればわかるのか、そこまで落とし込んだうえで面接すると、何となく合いそうというレベルで人を採用して失敗することも減ると思います。
──最後に、ジャパン・クラウドでの今後の注力点と、人材育成や組織強化に悩む方へのメッセージをいただけますか。
まだ夢に近いことですが、研修制度や仕事を経験しながら習熟する仕組みを整えて、いずれ新卒や未経験の人を採用できるようにしたいですね。私自身が新卒入社した会社で半年ほど、何も稼いでいないのに研修を受けさせてもらい、それが力になっているからです。若い人を育てることは社会貢献につながり、ひいては自社の繁栄にもつながるので、少しずつ広げていきたいです。